『遺伝子医療革命 - ゲノム科学がわたしたちを変える』フランシス・S・コリンズ

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20140611開始, 同日読了.

Kindleで購入. もとは論文輪読会の中で紹介されたもの. 主に前半の, 10年前は最先端だった遺伝子検査周辺情報を学ぶために読んだ.

再読ポイント: 後半(5,6章以降), および3章

著者: フランシス・S・コリンズ 著者はワトソンの立ち上げたヒトゲノム計画を引き継いだ責任者(!?)

23andMeと並んで紹介されている企業

  • Navigenics
    • "Navigenics was recently acquired by Life Technologies" そうなの
  • deCODE

著者は, この3社にDNA分析を以来した. ;; 専門家のチェックか怖いなw リスク評価に使っていた論文, 公開データは同じものだった.

やるべきことをすべて忘れずにやるのは不可能 => 個人の遺伝子情報を知ることで何に注力すべきがわかる.

アルツハイマー病のリスクは知るのが怖かったそう. あるガンのリスクに慣用する塩基配列のN箇所を調べている, が会社によって調べる数が違った. 最新情報が更新されるたびにNavigenicsは顧客にEmailを送る.

調べたのはDNAの1000万箇所 ;; SNP

5-7年後には全DNA配列, 30億塩基対の情報を得られるようになる.

2000年のヒトゲノム解読, から10年. いまどうなってるのか知る人は少ない.

過去10年で見つかったことは高校の生物の授業の大半を覆している. ;; アメリカの高校生物進んでるな

  • DNAの大半はジャンク? => NO.
  • ヒトゲノムは地球上一番複雑? => NO.

両生類やシダはヒトゲノム30億塩基対より大きい.

ヒトDNAに蛋白をコードする遺伝子は2万個しかない ;; 3万と記憶してた

大半の遺伝子は中に不要な配列(イントロン)が入ってるのでスプライシングが必要. RNAにはなるがタンパク質に翻訳されない領域がたくさんあり, ジャンクとはいえない重要な働きをする.

違う生物のゲノムを比較して保存されているところは生物的に重要なところ.

家族歴を知ることで命が救われるかもよ.

遺伝の原則

  1. ヒトは二倍体. 一人ひとりがDNAに遺伝子を2つずつ(両親から1個ずつ)持っているということ.
  2. 劣性遺伝子疾患の場合, 両方にスペルミスがあって初めて発動する
  3. 優性遺伝の場合, 片方スペルミスがあれば発動する

変異mutationは明らかに悪い影響があるもの, variantは良くも悪くも中立にもなりうるスペルミス. variantがヒト集団の1%以上の頻度で出現するとき, 多型(polymorphism)という. 1塩基だけ違うものはsingle nucleotide polymorphism, いわゆるSNP.

フェニルケトン尿症, フェニルケトンを退社できないのでタンパク質を摂取せずそれ以外の必須アミノ酸をサプリで補う必要がある. 遺伝的要因で発症するが, 厳格な食生活で100%制御できる.

乳児スクリーニング, 母体スクリーニング. 今後, 母体に含まれる乳児の血液を「直接」調べられるようになる. 確率ではなく, その子供のデータを直接だ.

ここまでは「見つけやすい」話. 以降はもうちょっと複雑で微妙な領域に入ってくる. ;; この時点で本の25%程度.

知っていれば備えることができるし心の準備も出来る.

現在は特定の遺伝子を調べるのではなく, ある疾患をもつ集団1000人のゲノムとあなたのゲノムを比較して, よくあるvariant 1000万種類に加え希少なvariantの有無を調べられる.

2003年時点で, 1DNA標本について1SNP調べるには50セント程度. 1000万SNP x 2000人 x 50セント = 100億ドル, にもなっていた. 「6年後の今」 ;; 2009年か.

;; SNPからGWASへ

ある程度のDNA領域で共同して働くっぽい, とわかってきた. その「領域」内には30-40程度のSNPが入ってる.

区間の境界を知り, SNP一式の代表となるものを選びさえすれば(?), まとめて予測が可能になる. => これがHapMapプロジェクト

区間を「ハプロタイプ」と呼ぶ. これでゲノム分析作業が40分の1(40のSNPが共同して働いてるので)になる.

HapMapプロジェクトが検査すべきSNPの数を(代表を抽出して)減らし, さらにコストが下がったことで, 1000人の患者群と1000人の対照群のゲノムワイド相関解析(GWAS)は, 2006年には100万ドルまで下がった.

知りたい度合い = リスク x 負担 x 介入 ;; 負担いらなくね?

遺伝子検査はまだ黎明期なので反対するヒトも出て来るだろうが, 遺伝学を医学の主流にすべく努力してきた著者の立場から, この情報は消費者個人に届けなくては意味が無いと信じている, とのこと.

米国の臨床遺伝学会は, 検査の限界を正確に消費者に伝えられる限り, という条件付きで消費者直販を支持する決定. 検査の限界とは具体的に:

  • 現在検出可能なリスク因子は, 病気を引き起こす影響力はあまり大きくない. 個人個人の検査結果は大きく変わらない. 傾向程度.
  • 家族歴を組み込んでない.
  • 一般的でない遺伝子変異は検出できない
  • 追加情報に寄るリスクの見直しが発生する
  • 企業のミスがあり得る. データの追跡と記録が可能な仕組みになっているか意識すべき.
  • 検査結果の解釈は各社一律ではない. また同じDNA標本でも解析者によって異なる結果が出る.
  • リスク予測の大半はヨーロッパ出身者のデータが元.
  • BRIのうちI(介入)が確立してない場合, 知ってもどうしようもない.
  • 糖尿病, 心臓病などへの対策はありきたりのもの. 遺伝子検査受けたからって画期的なアレがあるわけではない
  • DNA検査結果を誰に知らせるかを慎重に考えないといけない

次は個人の全配列を1000ドル未満で読む段階に入るだろう, と. まぁ読んだ後の過大としてその人独自のvariantは影響を予測できない.

ガンは遺伝子の疾患である. ガンのあるべき分類は, 臓器別でも細胞形態でもなく, 癌遺伝子が関与している分子特性によって分類されるべきである.

そして分子. ガン増殖に関与するEGFRというタンパク質の作用を阻害する薬で一気に改善することもある.

現行のFDA承認システムは平均的な集団に対して効果があるか, で認可おりてるので, パーソナルゲノム医薬時代になれば見直しが必要になる.

次の章は人種に関する話だが, 日本人はこのへんあんま興味ないよね

HIVに「感染しない」変異を持つ人もいる

ヒト体内の微生物系(microbiome)研究, という新分野も出て来てる.

7章: 脳と遺伝子

  1. 総合失調症
  2. 躁鬱病
  3. 鬱病性障害
  4. 自閉症

GWASで「よくあるvariant」を調べても, これら4種の病気の因子は出てこない. あってもせいぜい数%.

原理的に考えると, 「よくあるvariant」になるには生殖適応度がある程度高くないといけない. 逆に言うと, 生殖適応度が大幅に下がるような変異は「よくあるvariant」(定義は1%以上だっけな)として定着しない. 定着せず, それでいて人類の歴史においてちょくちょく出て来る変異はその度断絶してはまたポコっと出て来る.

ゲノムワイド関連解析によれば, IQに影響あるvariantは見つかっていない.

8章: 老化と遺伝子

現在アルツハイマーをなんとかできる方法は見つかってない プロゲリア(早老症)は家族にまったく傾向が出てこないので非常に研究しづらい.

そもそも我々は何故老いるのか. 細菌は無限に行きているじゃないか. 複雑な多細胞生物の何が老化につながるのか?

  1. ゲノム複製ごとのエラーが不可避
  2. 進化的には生物が永遠に生きないほうが有利

ただまぁこれは女性が閉経後に生きる期間長かったりとかそういう反論もあるので深追いしないが吉.

長寿の要因はどうも環境より遺伝子にありそうだ, と.

遺伝的variationの表出の仕方としてすぐ連想できるSNPの他, Indel(挿入と欠損), あとはコピー数の違い(CNV: copy number variation)がある.

;; C.Venterと競争していた張本人か. 著者らの公的プロジェクトは淡々とゲノムを読み続け, セレラ社は結局道半ば(しかもだいぶゴールに遠いところ)で中止に. その時点でのセレラ社の成果物の半分近くは公的プロジェクトからダウンロードしたDNAデータだった. ;; ショボい その後, セレラ社はDNA配列が完全に公開されると彼らのビジネスが成り立たないことに気付き, C.Venterを解任して診断会社としてやりはじめたとのこと.

ステマティックに新薬を探そう 天然物から拾ってくる代わりに, 純粋な化合物のリストから望ましいものをみっけてくる. 化合物ライブラリの中から標的に対する活性テストをやってく.

20140707: 再読. hbに物理メモ化したのでここは微小

アメリカ医療費の5%しか研究に投資されてない

3章ポイント.

ハップマップ・プロジェクトが検査すべきSNPの数を減らし, ラボ作業コストが下がったことで, 1000人の患者群と1000人の対照群のゲノムワイド相関解析は, 2006年には100万ドル未満でできるようになった.