『ベーシック・インカム - 国家は貧困問題を解決できるか』原田泰
ベーシック・インカム - 国家は貧困問題を解決できるか (中公新書)
- 作者: 原田泰
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2015/02/24
- メディア: 新書
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20150411開始,同日読了.
2015年2月末発行.
1章: 所得分配と貧困の現実
日本社会の安心は会社が担ってきたが,19世紀のビスマルクに端を発することだしそろそろ脱却しよう.国家が直接人々の安心を保障するべきだし,さらに国家が貧困そのものを消滅させるべき.今の国家が果たしてる業務を整理すると,それを実現するだけの財政力はある.
アメリカでも2013年からようやく国民皆保険が導入されてる.
近代社会は人々が自営業者から被雇用者になっていく過程でもあった.
1960年代以降でもっとも重要な変化は,子が資本財ではなく消費財になったことである.自営業者の社会においては,子は労働者であり,共同経営者であり,老後の扶養者であった.子はまた,親にとっては「年金」であり「保険」でもあった. しかし,雇用者(被雇用者)の社会においては,子供は(中略)親のために働くこともなければ,親の老後を支えるわけでもない.雇用者の社会における子供は,単に親が育てることを楽しむための消費財になる. (p.6)
;; 子が消費財とは刺激的な視点.面白い
家族にとっては消費財だが,社会にとっては資本財である.
子にとってもいざというとき頼りになる家族と離れて暮らすことになった.んで,家族の代わりに新たに社会安定制度として企業が役立ってきた,と.企業は終身雇用制度を保障する努力を払い,社会保障制度の一部を肩代わりするように.
現在の日本の状況(本書は2015年2月末発行)としては,2012年からのアベノミクス第一の矢,大胆な金融緩和(リフレ政策)によって雇用情勢は好転している.
;; 僕の観測範囲内でも雇用状況がよくなってるのを感じる
日本の特徴はワーキングプアが多いこと.
単純に考えてみよう.貧しいことはお金のないことである.であるなら,政府が貧しい人に直接補助をすればよいのではないだろうか. (p.44)
生活保護もあるが,申請を拒否され死亡する事件が2005年ごろから立て続けに起きた.大事なのは「すべてのひとがそこにアクセスできること」...なのでBIがいいよ
無駄に働くことは,何もしないよりも罪が大きい. (p.47)
2章: ベーシック・インカムの思想と対立軸
リベラリズムは「社会の制度は公正であるべき」と言うが,まず公正とはどのような常態かを定義する必要がある.稼ぐ人は累進課税に反対するし,貧しい人は賛同するわけで.
自分がどんな立場で社会に産まれてくるかわからない状態で相談する思考実験 by ジョン・ロールズ『正義論』
そのような状態では人々は自分が最下層に属する可能性について考える.ので,公共政策は社会の中で最下層の人々の効用を高めることを目的とすべき.minimumをmaximizeすることからマクシミン原則と呼ばれる.
;; 無知の状態で最悪のケースを避けようとするのは人間心理の特性であって,それを以ってして現実の指針とするのはちょっと乱暴に過ぎると思う.
リバタリアンは,政府による「豊かな人から貧しい人への富の再分配をする権利」そのものを否定している.
(余談)そもそも富の分配方法が正しいという前提を信じられるのであれば,だけど.富が不公平に分配されてる中国なんかで民主主義が成り立たないのはこのへんにも原因がある
ウォールストリートの投資銀行の富は本当に「正当に得たもの」なのか
ウォール街占拠派のプラカードに「法人格を廃止せよ」というスローガンがあった.
経営者は,利益を得たら自分のおかげ,損が出たら株主の負担という条件で勝負ができる (p.93)
ヨーロッパの銀行では本来利益を上げていない,あるいは不正に上げられた利益を返還する制度がある.不正行為・違法販売による後払い報酬の剥奪.職を辞しても責任は追求される.
- ref: ジョン・スチュアート・ミル『経済学原理』
BIの発想に,新たに息を吹き込んだのは,新自由主義の総帥ミルトン・フリードマン(1912-2006)であると言ってよいだろう.(p.64)
フリードマン『資本主義と自由』による「負の所得税」(図) ... BIそのものではないが発想は同じ
彼ら(平等主義者)が「誰かから取り上げて別の誰かにあげる」ことを認めるのは,目標を達成するための効率的な手段だからではなく,「正義」だからなのだ.この点に立ち至ったとき,平等は自由と真っ向から対立する. (フリードマン『資本主義と自由』p353-354) (本書p.69)
明らかに日本の福祉官僚は平等主義者であって自由主義者ではない.
フリードマンはBIにふさわしいのは1人あたりGDPの10%,という意見
いまのところBIを実行に移した国はない.金額についての合意が得られないことと,福祉政策についての家父長的発想が根強いこと.貧しい人は自己責任,的な.
人間には自己決定権という自由があると考えると,自由には,自ら愚かなことをする権利,「愚行権」も認められるべきなのだろうか.私は,自由を認める限り,愚行権も認めるしかないと考える.なぜなら,何が他人にとって正しい行為なのか,それを他人が決める権利も知識もないからである.(p.106)
近衛文麿 ... 藤原鎌足の子孫である近衛家.3度に渡り首相."アジアを欧米の植民地支配から解放し,日本を盟主とする共存共栄の新秩序"を建設しようとする「大東亜共栄圏」発表.結果的に見れば,日本のアジア侵略こそがアジアの共産化をもたらした.
近衛こそは,結果として世界でもっとも成功した世界革命的共産主義者だった. (p.87)
近衛文麿は1941年10月に東條英機に首相の座を譲る.12月の真珠湾攻撃まで2ヶ月しかなく,東條の頃にはもう止めるのは難しいほどお膳立てが完了していた.
3章: ベーシック・インカムは実現できるか
月に7万円という「高くない」水準だと実現可能.
すべての人の年間所得 = 自分の所得*0.7 + BI(84万円)
- 所得税を一律30%にする代わりBIで底上げ
- 結婚・扶養・年齢に関係なく成人に月7万(年84万),子供には母親の口座に3万を振り込む
- このラインだと年収280万が課税額とBIが一致する分岐点
年収低い人,現行制度だと所得税ほぼないけどBI導入すると一律30%.これは労働意欲を阻害するのでは,という批判. しかしまぁ現行の生活保護は働くと給付水準が下がることから,めっちゃ確実に労働阻害効果がある.それよりゃマシだろ
また,BIがあるからと企業は賃金を引き下げたりしないだろうか? => BI水準が高くないのでそこまでではない.むしろ「給料クソ低い会社では働かない」という選択肢を与える.
BIを導入するなら,移民を制限しないと,貧しい国の人々のタダ乗りを誘発してしまう.年500万以上稼げる人に限定して移民を認めないといけない. オランダやデンマークのように,福祉発達 && 寛大な移民・難民政策をとってきた国が政策転回を余儀なくされている.
BIは無条件で国民に与えられるものであるがゆえに,その国民の範囲を限定せざるを得ない.
;; これ一番回避が難しそうだな...
BIにより国民の銀行口座に振り込む...副次的効果として,国民の銀行口座をすべて把握できるということになり,
政策をめぐる議論が混乱する大きな理由は,目的の正しさと効果の正しさを混同することにある.(p.167)
「バラマキ」の本書での定義 ... 一律給付.
バラマキは批判が多いが,農業・林業への「バラマキじゃない」政策がうまくいってない.
林業は本来なくても自然に育つところに下刈や間伐をするからコストが高い.
吉野林業.江戸時代にスギが割りやすく加工しやすいことから密植するようになる.
バラマキは人々にあれこれ指図せず,創意を阻害しない.
しかし底上げすることで生活必需品の物価上昇しないの?