『重力と恩寵』シモーヌ・ヴェイユ
重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)
- 作者: シモーヌヴェイユ,Simone Weil,田辺保
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/12
- メディア: 文庫
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;; 20150918開始,20150919読了
自分の外に,苦しみをまき広げようとする傾向.もし,過度な気の弱さのために,他人の同情をひくことも,他人に害を加えることもできないときには,自分の内部にある宇宙の表象に害を加えようとする.
そのときには,美しいもの,よいもののすべてが,自分を侮辱するもののように思えてくる.
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どんな形においても,報いを受けることは,エネルギーの堕落になる.
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執着が,もろもろの幻想をつくり出すのである.だれでも現実的なものを望む者は,執着から離れなければならない.
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時間と洞窟.洞窟から出ること,執着から離れることは,もう未来の方向へと向かうのをやめることである.
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死.過去も未来もない,瞬間的な状態.永遠に近づくためには欠かせないもの.
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自分を根絶やしにしなければならない.木を切って,それで十字架をつくり,次には日々にそれを負わなければならない.
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どんな行いにしても,その目標の面からではなく,衝動の面から見てみること.どんな目的でということではなく,どこから来ているのかということである.
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あるひとつのものが,よいものだと信じるからこそ,その方向に向かってすすむのである.それが必要なものになったから,それに縛られたままでいるのである.
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この世のさまざまな事柄についての幻想は,存在に関するものではなく,価値に関するものである.
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いつも,時間との関係が問題なのである.時間を所有しているという幻想をなくすこと.受肉すること.
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わたしたちを神に近づけないような学問には何の価値もない.
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他の人たちがそのままで存在しているのを信じることが,愛である.
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どんな愛情にもとらわれてはいけない.孤独を守ろう.もしいつか,真の愛情が与えられる日が来るとしたら,その時には,内なる孤独と友情のあいだに対立はなくなっているだろう.いや,このまちがいのないしるしによって,あなたは友情をそれとはっきり認めるだろう.
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わたしは,自分の苦しみが有益であるからというので,それを愛するのではいけない.苦しみが存在するから,愛するのでなければならない.
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つらく苦しいことを受け入れること.受け入れたことがつらさに跳ね返って,つらさを減らすというのではいけない.そうでないと,受け入れるということの力を純粋さが,それに応じて減ってしまう.
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精神がぶちあたるさまざまな矛盾,矛盾だけが現実のすがたであり,現実性の基準だ.想像上のものの中には矛盾はない.矛盾は,必然であるかどうかをみるためのものである.
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よくない求め方.ひとつの問題に注意をしばりつけてしまうこと.これも,真空嫌悪の一現象である.人は,自分の努力がむだに終わってしまうことを望まない.(中略)
ただ,どんな欲望も伴わぬ(ひとつの目的に縛られていない)努力だけが,間違いなく報いを隠し持っている.
自分の追求している目的の前で後退すること.遠回りすることだけが,効果をあげる.まず最初に後退しなかったならば,なにもなしとげられない.
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不可能なものに触れるためには,可能なものをやりとげておかねばならない.
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わたしたちは,知性でとらえられないものの方が,知性でとらえられるものよりもずっと実在的であることを,知性のおかげで知っている.
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信仰とは,知性が愛の光を受けるという体験である.
ただ,知性は,知性に固有の手段を通じて,すなわち,確認し証明することによって,愛の優越を認めなければならない.知性は,その理由を,のこりなく確実に,明瞭に知った上で,はじめて服従しなければならない.
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真の愛において,知性がとくに大切な役割を演じるのは,知性はもともと,自分が動くという事実がただちに自分を消すことになる性質を持ったものだからである.
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知性を実際に働かせているときには,自分の知性を誇るなどということはありえない.
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知性は,奥義の中へ深く入り込むことは決してできない.だが,知性は,そして知性だけが,奥義を表現する言葉の適切さについて判断を下すことができる.知性を,このために用いるのなら,他のどんな場合にもまして,鋭敏で,尖鋭で,正確で,厳密で,酷薄でなければならない.
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想像と事実のあいだの不一致に堪えること.
「わたしは苦しむ」そういう方が,「この景色は醜い」というよりも良い.
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安定(均衡)とは,あるひとつの秩序が,自分を超えた別な秩序,しかも無限の小さなものとなって自分の中にありありと存在しているような秩序に従属するということである.
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安定だけが,力をなくしてしまう.
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あらゆるかたちの嫌悪は,上昇するための梯子として人間に与えられている,何よりも貴重な悲惨さのひとつである.わたしは,この恵みにたっぷりと十分にあずかっている.
どんな嫌悪をも,自己への嫌悪にかえること......
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労働すること -- 疲れ果ててしまうのは,物質のように,時間の従属物となってしまうことだ.思考は,過去にも未来にもすがりつくことを許されずに,ただ瞬間から瞬間へと移っていくことを強いられる.それが,服従するということである.
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死を通って行かねばならない.死なしめられねばならない.この世の重力を受け忍ばねばならない.