『脳と心の神秘』ワイルダー・ペンフィールド

脳と心の神秘

脳と心の神秘

20160211開始,同日読了 原題 "The Mystery of the Mind", 1975

1952年,ペンフィールドらは扁桃核に電気刺激を与えると一種の自動症(夢遊病のように無意識に行動,その記憶が全く残らない)を引き起こすことを発見 臨床医という立場は,意識・記憶・心といったものごとを科学的に研究する上で便利

脳はこころと外界の仲立ちをする機関.これはヒポクラテスが最初に指摘

"電気が発見されるきっかけとなったのは,脳のエネルギーが神経に沿って伝わることを示した研究である" p.40

;; ほんまかいな

ペンフィールドたちはてんかんの外科的治療の過程で電気刺激のいろんな実験を行ってきた

1951 年,ペンフィールドは側頭葉には「記憶野」とでも呼ぶべき部分があると主張 側頭葉と海馬が一緒になって過去の吟味・想起を行っている

左右にある海馬,片方だけだとちゃんと動くが両方切除すると

"過去の意識の流れを再現する機能が,意識的なものも自動的なものも失われてしまう.海馬には意識の流れの記録を利用するための「鍵」が隠されているらしい" p.79

脳には心に直結する仕組みと,行動を自動的に制御する仕組みが同居している.

自動症が発症した患者はかなり複雑な行動をこなすが「新しい決定」を行うことが出来ない. あと新しい記憶の書き込みもできないしユーモア・喜怒哀楽も欠いている. が,2,3 分の間だけ意志の代わりをつとめる計画性を発揮することもある.

"大脳皮質の感覚野または運動野のいずれかにてんかん性の放電が起こり,そこから過度の興奮が上部脳幹へ伝わると,必ずけいれん性の大発作が起こり,自動症の発作は,私達の経験では,決して起こらない.これに対して,前部前頭葉または側頭葉の一部に始まるてんかん性の放電は,過度の興奮を上部脳幹へ伝えて自動症を引き起こすことがある" p.88

てんかん性放電発生時の箇所と効果

  • 大脳皮質・運動野 -> けいれん発作
  • 前頭葉・側頭葉 -> 自動症

側頭葉に病巣のある患者に自動症が多い. で,側頭葉の奥深くにある扁桃核に電気刺激を与えると自動症が誘発される,と

最高位の脳機能(= 心に直結する仕組み)は:

  1. 側頭葉と前部前頭葉の進化的に新しい部分とは直接に連携している
  2. 古い運動野および感覚野とはコンピュータ(自動的な感覚 - 運動機構)を介して間接的に連携している

心の働きを脳の仕組みだけで説明できるか? ペンフィールドの回答は "No".心の働きはいかなる神経機構によっても説明できない.

"心は,その活動を最高位の脳機構に依存してはいるが,独自のエネルギーを有する.それは神経線維を伝わる電気的なエネルギーとは異なった形のエネルギーである" p.100

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"私自身は,心を脳の働きのみに基いて説明しようと長年にわたって努めた後で,人間は二つの基本的な要素から成るという説明を受け入れる方が,素直ではるかに理解しやすいと考えるに至った" p.146

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"人間は誰しも自分の生き方と個人的な信条を自分自身で選ばなければならない.これは科学の助けを求めることはできないのである.私も長い間自分なりの信仰を持ち続けてきた.そして今,科学者もまた誰はばかることなく霊魂の存在を信じうることを発見したのだ!" p.154

意識の流れは脳の中に記録される.このとき注意を向けたものだけが記録対象となる. 心は神経インパルスを特定の標的灰白質へ伝えられる. 神経インパルスとして指示を出してはいるが,指示を出すところは脳ではないのだ,と

意識の働きを超然として観察できるということは,心は神経の反射的な働きから遠いところになければならない

"行動に基づいて判断を下すとすれば,心を有する生物が人間だけではないことは明らかである" p.122

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"心は経験の永続的な記録と想起に必要な脳機能を必要としない.意識の流れを支える最高位の脳機能が正常に働いていさえすればいいのである" p.134

過去の経験を調べて呼び起こす "read" 部分に関しては,側頭葉の海馬が不可欠な役割をしている

心は脳の電気刺激による肉体的作用からは離れたところにある. 刺激して何か喋ったり手を動かせたりしても「俺じゃない,先生が"動かさせた"んです」みたいなことを言う

心自体は独自の記録を持たない.記録機能は脳に依存している

肉体的老いとは異なり,心には老化に当たる現象は見られない

心が独立しているのなら,心は他の心と通信できるか? ペンフィールドの回答は "No". しかし人の心と神の心なら直接的な通信できんじゃねと言う話もある.これについては科学的な吟味が出来ないのでなんとも

"人がそれによって生き,死んでいく信仰を,科学の名においてとやかく言う権利はどの科学者にもない" p.157

目覚めている間,心は最高位の脳機能からエネルギーを共有されているようである.

"人間には真実を恐れる理由はない.終局的には,真実は私達がそれによって生きる正しい信仰を強固にするだけである.人間の本性には,探求し,学び,安心の得られる信仰を持ちたいという衝動が深く刻み込まれている.人々はまた個人的な信条を持っており,それは,ごくわずかではあっても,ほかの人のものとは違っている.そしてそこに,私達人類の力と希望があるのだ" p.159

生物進化の過程を経て "意識" という特異な現象が出現

"これ(意識)はやがて人間の心によって作り出される新しい世界,悟性と理性を備えた世界を出現させた" p.160

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"この世界の神秘は,それが理解しうることにある" -- アルバート・アインシュタイン