『「標準模型」の宇宙 現代物理の金字塔を楽しむ』

2023-03-09 開始
2023-03-10 読了

原題 Deep Down Things - The Breathtaking Beauty of Particle Physics

原著の出版は 2004 年。

目次からざっくりテーマを。
自然界の力。相対論と量子論の結婚。リー群。対称性。ゲージ理論。ヒッグスボゾン。
本書は素粒子物理学標準模型、科学者たちがここ50年で明らかにしてきた自然界の姿に関する本。
高等数学の抽象概念が物理世界に関係を持っている。
4つの力。重力、電磁気力、強い核力、弱い核力。
どれが独立で根底的なチカらなのか?まだわかっていない。
現在、電磁気力と弱い核力は「電弱力」という一つの統合された力であることがわかっている。
重力は強くない。日常生活で感じる重力は、地球という巨大な質量があってようやく「これ」である。人間同士の間には重力が働いているが、とても感じ取れない。
重力の及ぶ範囲は電磁気力と同じ。距離の二乗に反比例する。
強い核力(または強い力)は、陽子と中性子をつなぎとめて原子核を作っている力。

すべてのクォークは基本粒子であるが、
すべての基本粒子がクォークであるわけではない。
レプトンと呼ばれる基本粒子はクォーク℃違ってカラーチャージは中性。

弱い核力(または弱い力)は、4種の力の中で1番はっきりしない。不安定な原子核が電子とニュートリノを放出する、β崩壊と呼ばれる過程が起こるのは弱い力のせい。
入力は弱い力をもってのみ他の物体と相互作用するが、そのニュートリノは地球を完全にすり抜けるほど。弱い力はそれほどに弱い。
現代物理学の最初の革命はアインシュタイン相対性理論
ド・ブロイ。波と粒子の二重性。
すべての物体は波としての性質を示し、その際の波長は物体の運動量に反比例する
ハイゼンベルグ不確定性原理。これにより決定論派正当化できなくなった。出来事の精確な道筋は本質的に知ることができない
不確定性原理のもう一つの帰結は、観測する側とされる側の違いが失われる、ということ。観測するには何かと相互作用しなければならない。その相互作用は必ず何らかの影響を与える

ネーターの定理「ある物理法則が示すすべての対称性には、保存する観測可能な物理量が存在する」
ハイゼンベルグの導入した核アイソスピン。内部空間という概念の広がり
電子スビンとは別物。
内部対称性空間はすうがくてきこうせいぶつ。
ゲージ理論標準模型という形式の一部
そしてゲージ理論標準模型の基礎をなすものでもある

ゲージ理論繰り込み
繰り込み。電子を観測するとき、裸の電子を観測しているのではなく、真空の無数のゆらぎを予め取り込んでいるものと考える。
実験室で観測する電子の電荷には、電子と真空の取り巻きをすべて合わせたものであると考える。

量子論は「強い核力」の既述に成功した

波動関数が位相の変化(より一般的には何らかの内部対称性空間における回転)に対して不変であるという概念と、自然な形の因果関係(相互作用)を具体的に記述する項を波動方程式の中に取り入れるという考え方 ― この二つの概念のつながりが私たちがゲージ理論と呼んできたものである。
物理的な相互作用法則が働いた現象や関与した現象について、その背景にある根本的描像をゲージ理論の視点で描き出すには、考えるべき問題が二つある。一つは自然界の物体の波動関数がもつ位相変化に対する不変性の特徴(すなわち根底にある対称群)であり、もう一つはその不変性と関連したチャージの性質と強さである。
さまざまな内部対称性空間の構造を決めるすべてのリー群と、これに関連したチャージの性質と強さがわかれば、物質のふるまいの基本ルールが完全に記述される。(p.374)

ワインバーグらが作り上げたグラショウ・サラム・ワインバーグモデルは、電磁気力と弱い核力を統一的かつ正確に記述することに成功。ワインバーグらは1979年にノーベル物理学賞を受賞。

ゲージ理論は、いまのところ知の発展の軌跡の終着点に位置する。ゲージ理論はあらゆる形態の物理的因果関係(ただし重力を除く)に関する理解を統一的に説明する手段を与えた。つまり、
1. 根底にある三つの内部対称群のいずれかを選び、
2. その群に関連した三つのカップリングパラメータ(チャージの大きさ(電荷・弱アイソスピン・カラーチャージ))を経験的に決定する

ただ、ゲージ理論だけでは質力を考慮できていない。そこでヒッグス場を導入する。
ヒッグス場は質量のためだけに導入された。理論の健全性には必要だったが、ゲージ理論の簡潔さを犠牲にしている面もある。場当たり的に導入されたと言っても良い。

;; 著者はヒッグス場に懐疑的? いやそういうワケでもないか. 執筆時点での最前線なので「この先何が出てくるか」というニュアンスで書いてる
;; ヒッグス粒子は 2011 年以降に実験でも観測された
;; ヒッグス粒子は神の粒子とも呼ばれるがあまり科学者はこの呼称を好んでいない。goddamn particle (いまいましい粒子) と呼びたかったが編集者の意向で god particle になったとか

『小さなチーム、大きな仕事』

2023-03-06 開始
2023-03-08 読了

原題: REWORK
原著2010年出版

Rails 作ってる DHH たち(37 signals)の書いた本
小さなチームは通過点ではなく目的地になりうる
失敗は過大評価されている。成功するに越したことはない
自分(たち)の問題を解決する製品を作れ

毎日数時間を捻出してまずはじめてみる
やり始めれば興味と興奮が本物だったのかどうかわかる

外部の資金を入れるのは最終手段
コントロールを失う。他人の金は癖になってしまう。投資家は現金が素早く戻ってくることを望んでいる。基本的に不利な取引。顧客が後回しになる。資金調達にあたまがひっぱられる。など

スタートアップは現実のビジネスを無視しようとする魔法の世界。あてにしてはいけない。初日から利益をあげろ。
身軽なのはいいこと。素早く動ける。足りないことは工夫で補うモチベーションになる。
これを削ったらもう売るもんがねぇ、というコアの価値にフォーカス。機能フルセットの半端製品よりも機能半分でいいから完成品を売る
副産物を売ってみる。
会議は害悪。まとまった時間にしか仕事は終わらない。確保する。
2時間で終わると思って始めたことにおつのまのか4時間かかっていて、しかも 1/4 しか終わってない。つまり終わるまでに16時間かかる。ここで取り得る道は
・ヒーローモードになり、外界をシャットアウトして終わるまでひたすらやり続ける
・当初の計画、2時間で終わるならやっても良かったが実際どうか?と振り返って再度計画を立てる
の2つだが、前者は避けること。ヒーローになるな。

人間は見積もりが下手。
スケジュールを小さな単位に分けるとちょっとマシ。TODO リストも長大なものを一つ持つより、複数に分解しよう

競合/敵をもって、それのアンチとして意見を言う。スタンスを明らかにする一つの方法。
競合製品よりも「少ないこと」をやる。小さなことをうまくやる。

顧客の求めるものを作っていてはダメ。自分がいいと思うものを作る。
顧客の言葉を聞いていたらもっと速く走る馬を提供していただろう、というヘンリー・フォードの言葉。
最初に無料で提供して、いいものだとわかってもらって金を払ってもらう。

舞台裏を見せる。プロフェッショナルには見えなくても本物であることはわかる。

マーケティングは、会社のみんなが行うものである。365日、24時間いつでも。
何かコミュニケーションの手段があるのなら、マーケティングはできる。 (p.187)

対応の速度はすべてを変える

全員を最前線へ送る。仕事はすべて経験してみて、経験した後にそのポジションに必要な人を雇う

人は習慣の生き物だ。何かが変わるだけでネガティブな反応を示す。習慣が乱されると反発し、文句を言い、元の状態の戻せと訴える。 (p.233)

ポジティブな意見よりもネガティブな意見の方がうるさく聞こえる。満足している人はあまり声を上げない。

ひらめきには賞味期限がある。何かやりたことを思いついたら、今やる。二ヶ月後ではなく。

『EAT 最高の脳と身体をつくる食事の技術』

2023-02-19 開始
2023-02-28 読了

参考文献がない(日本語訳だけかも)のがマイナスポイント
...だが, これのみを以て評価★★★★☆に下げるには惜しいくらい良い本

二部に分かれており、というか第一部が70%くらいの紙幅を割いており、第一部が「脂肪を減らす」で第二部が「頭をスッキリ、睡眠の質などその他の生活向上」という分類

なんかこの人のストーリー知ってる。子供の頃に不健康な食事をしまくって20歳で陸上の練習中に骨折して、骨がぼろぼろであることがわかって、でもあるとき考え方を変えて健康について学んで食事変えて改善したっての。

脳は、疑問を持つとそれに対する答えを意識的/無意識的に探し始める

カロリーの罠。カロリー算出は食品を燃やして水の温度をどれだけ上げるか、という定義。だが、人間の身体はそんな熱量測定器とは異なる。ブルーベリーの種など、体内では消化吸収されない部分もある。カロリー計算ではそのへんの種も全部燃やして熱量計算に入れられてる。他にもナッツなんかは成分表示上のカロリーよりも実際に吸収されるカロリーが小さい

また、PFC。食品を食べたとき、たんぱく質は、その摂取カロリーの30%ほどを「消化・吸収」に要する。だから実際に身体に入るのは食べた食品カロリーの70%ほどになる。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-030.html
食事誘発性熱産生、という。上の厚労省の記載に従うと、
P たんぱく質で30%
F 脂質4%
C 炭水化物6%
となる。たんぱく質すごいな。桁違い


体脂肪は臓器の一種と考えたほうがいい。
体脂肪に関するよくある誤ったイメージは「ばらばらな細胞」「体内に散在する小滴」みたいな
脂肪細胞は通常の1000倍の大きさまで拡張できる。
体内の脂肪細胞の数は生涯を通じて殆ど変わらない. 太る、というのは、既存の脂肪細胞の「中身」が増えること

脂肪はそもそも人体に必要。細胞膜は脂肪で構成されているし、脳の細胞も脂肪に依存している (ミエリンの80%が死亡)。

  • 褐色脂肪: 脂肪を貯蔵しない...どころか燃焼する!ミトコンドリアを含むため独特な色をしている。筋肉細胞と共通の幹細胞前駆体に由来
  • 白色脂肪: エネルギーを貯蔵する。以下三種類
  • 皮下脂肪: 皮膚の真下に位置する体脂肪の総称で、全身に存在。余分なエネルギーの貯蔵、緩衝材、体温調節、神経や血管の通り道の役割。
  • 内臓脂肪: 胴体の内側の奥にあり、臓器のまわりや筋肉の下に位置する。体内に取り込まれた余分カロリーの行き着く先
  • 筋肉内脂肪: 運動を行うときにその場でエネルギーとして使用される

白色脂肪が褐色脂肪にまるっと生まれ変わることはないが、
白色脂肪が"褐色化"して「ベージュ色」になることはある。

カロリーの罠
1 カロリー = 水 1g の温度を1度上げるエネルギー、と定義されている

体内で食べ物のエネルギーが燃焼するプロセスは、測定容器の中の食べ物を燃やして水温を上げる方法とは大幅に異なる
カロリー測定においては容器内の食べ物を「すべて」燃やしてしまうが、実際の体内では消化できない要素(食物繊維など)がある。

体内では「食物の産生熱」という現象がある
これは食べ物を消化するためにカロリーを使うことを意味する。カロリーを吸収するにもカロリーが必要。栄養素に応じてこの比率は異なる
タンパク質の消化: 食べたタンパク質カロリーの 20-30% が費やされる
炭水化物: 食べた炭水化物カロリーの 5-10% が費やされる
脂肪: 食べた脂肪カロリーの 0-3% が費やされる

栄養成分的に同じであっても、加工された食品と加工されていない食品なら、加工されていない方がいい。
それを分解してエネルギーにするためにエネルギーが必要。

また、食べ物には消化されやすいものとそうでないものがある。
ナッツやブルーベリーは、栄養成分上のカロリーよりも実際に吸収されるカロリーが少ない。
たとえば 170kcal のアーモンドを食べても 129 kcal しか摂取されない、という研究がある.
上記研究自体は比較的最近だが, その土台というか出発点になったのは「アトウォーター係数」という概念
FYI: アトウォーター係数 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BF%82%E6%95%B0

Wilbur Olin Atwater 博士は, 1900 年より前に世界で初めてエネルギー吸収率を測定した研究者
http://sports.hc.keio.ac.jp/ja/current-research-and-activities/files/2022/4/4/Newsletter40.pdf

PFC がそれぞれ P: 4 kcal/g, F: 9 kcal/g, C: 4kcal/g と定められたのもアトウォーター博士の仕事
これを初めて測定することは大変だったと思うが, 色々限界もあり, いまになって (e.g. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27974598/) 問題点が指摘されていたりする.
だが, これらの数値自体をそっくり置き換えるような新規理論はまだ確立されていない?
ああ, いや, アップデートされていってるな. 日本では『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』が 2015 年版と比べこの点で大幅アップデートされたっぽい
https://eiyo21.com/blog/fd_vol8/

マイクロバイオーム。
腸内細菌の多様性の高さは, 体重増加の少なさと「直接的な相関」がある. かなり強い結果だな
本書 (の日本語訳だけかも), 参考文献がなくてクソだが, 調べた感じ
Giovanna, et. al. (2019) "Gut microbiota" https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31391921/
この論文かな?


脂肪は酵素がなければ細胞から分離しない. 具体的な酵素

  • HSL (ホルモン感受性リパーゼ)
  • MGL (モノグリセリドリパーゼ)
  • ATGL (脂肪トリグリセリドリパーゼ)

とくに HSL が脂肪の遊離を担う
反対の役割, つまり脂肪を細胞にとどまらせようとする酵素もあって, それは

である.

こいつらの"上司"は「インスリン」と「グルカゴン」

  • インスリンは蓄える
  • グルカゴンはミニマリスト。アドレナリンがお友達で, グルカゴンの代わりに脂肪を追い出そうとしたりする

上から順にエネルギーとして使っていく

  • グルコース: すぐ使える手元の現金
  • (肝臓)グリコーゲン: 銀行口座
  • 脂肪: インデックスファンド (本書では譲渡性預金証書が使われていたが, 例として僕がイメージしやすいのはこちら)

つまりグルコースとグリコーゲンが尽きて初めて脂肪が減っていく

ミトコンドリアは脂肪を「燃やして」万能通貨である ATP に変換する. β酸化
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/betaoxid.htm


腸で炎症が起きるとマイクロバイオームが乱れ体重増加につながる
また、肝機能の低下も腹回りに脂肪が増える要因となる。肝臓は代謝に関わる重要な仕事をいくつも担っている
アルコールはもちろん、炭水化物の過剰摂取でも肝臓が炎症を起こす。また、殺虫剤の化学物質も (住戸と愛に無害だとされているが) 肝機能に悪い影響を及ぼす

インスリンは脂肪細胞に対して, グルコース脂肪酸アミノ酸をあるだけ吸収するように指示する
タンパク質と炭水化物の比率を見直すことで、グルカゴンを味方位につけることができる
タンパク質が多い食事 (肉/魚) をとって 30 分が経過すると, グルカゴンレベルが大幅に上昇した

> それら (甘いお菓子) を食べても死亡を燃やすホルモンに仕事をさせ、脂肪を溜め込むホルモンの好き勝手させないようにする方法がある。摂取するタンパク質を上質なものにし、食事で摂るタンパク質と炭水化物の比率を変えるのだ (高タンパクな食事にしろという意味ではない) (p.87)

直前の文章とカッコ内が微妙に矛盾してない? よーわからんな

コルチゾールには筋肉異化作用があり、「糖新生」というプロセスによって筋肉の組織を急速に分解して燃料に変える。
コルチゾールはストレス下で増えるやつ。
たとえば捕食者を前にしたとき、多少筋肉を食いつぶしたとしてもいっきにエネルギーを生み出して逃げた方が生き延びられる。そういう機能を持っていた

脂肪細胞は十分なエネルギーを溜め込んだら「レプチン」というホルモンを出して、他の細胞に「食べるのをやめろ」と伝える
要は満腹ホルモン。ちなみにレプチンとはギリシャ語で「痩せている」という意味

デブった人の体内で上記のレプチン作用が発揮されず無限に食べ続けているのは、レプチン抵抗性が原因。
レプチンがメッセージを四六時中送りすぎて麻痺している。だから体内の生化学メッセージは常に「まだエネルギーが必要だから食べろ」になる。
生体と意志の力が戦ったら必ず生体が勝つ。

1日の最初の食事でタンパク質の比率を増やすと、グレリンレベルが低下する、という研究。
具体的に実験で使われたのは, P30%, F30%, C40% というバランスだった
タンパク質の比率を増やすとよいというデータはあるが、
タンパク質を「中心」とした食事を支持するデータは一つもない。

口の中でさっと溶けるような高カロリースナックを食べると、脳はそれにカロリーがないと思い込み、もっと食べろと指示をし続ける
やめられないとまらないってやつ。

フィルミクテス門に属する腸内細菌は「悪い最近ではない」
Firmicutes - ファーミキューテスとも読まれているっぽい。多くはグラム陽性で低 GC 含有。
マイクロバイオーム。腸内細菌の多様性と元気さ、あと菌の種類によって痩せやすさが違う。上記 Firmicutes 門に属する細菌、あと乳酸菌が多い方がいい、みたいな

食べるものの多様性を高める。旬の食べ物を食べたり、ブルーベリー・アーモンド・ピスタチオなどをローテーションで食べると良い
あとマイクロバイオーム的におすすめ食材は
・りんご
・アスパラガス
・ココア (チョコレート菓子のことではない!)
など

食物繊維の分類

  • 水溶性食物繊維: 1日あたりの摂取量を増やすと内臓脂肪が減る研究
  • アボカド、サツマイモ、芽キャベツブロッコリー、りんご、人参など
  • 不溶性食物繊維: 水に溶けないので, 消化管を掃除してくれる
  • ベリー類、豆類、ほうれん草、ココア、サツマイモとりんご (こっちにも登場)、全粒穀物、くるみ、アーモンドなど

アメリカで現在推奨されている食物繊維摂取量は 25-30g / day

難消化性デンプン (レジスタント・スターチ)
自宅にもある「難消化性デキストリン」がこれに含まれる

https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/fiber/about/type/dextrin/

デキストリンとは、α-グルコースグリコシド結合※1によって重合※2した低分子量の物質の総称で、デンプンの仲間

難消化性「ではない」デンプンはあっという間に血流に乗って血中グルコースを上げるが、
難消化性のデンプンは消化されず故に血流に乗らず、善玉菌の餌となって腸内フローラを助ける。血糖の上昇を抑える。
;; 腸内フローラ = 様々な細菌が密集している様子を「花畑 (フローラ)」に例えた表現。正気か。 ref: https://www.biofermin.co.jp/nyusankin/chonaiflora/aboutchoflora/

白米やじゃがいもは調理した後「冷やす」過程で大量の難消化性デンプンを生み出す。
白米は一回冷やしたほうが身体にいいってことか。

著者はグルテン避けまくってパンなんて食べなかったが、お腹の調子が崩れ、友人である意思のアドバイスに従ってしぶしぶパン・マメ・玄米を食べたところ改善したらしい
完全なる悪ってわけじゃない。

発酵食品。ザワークラウト、キムチ、ヨーグルト、納豆、味噌、ピクルス、ケフィア

大豆食品は「少量」取り入れるとメリットが有る。食べすぎるとよくない
豆はあくまで「炭水化物が主体」の食品である。ナッツも同様

1 日に最低でも 1,2 品目のプロバイオティクス食品、1-2 会の難消化性デンプンを含む食事、さらには様々な食品を通じて 20-50 グラム (量は各人の身体のニーズに応じて調整) の食物繊維を摂ることが望ましい (p.153)

卵は重量の 34% がタンパク質で 64% が脂肪 (そのほとんどは黄身にある)
牛乳(全乳)は重量のうちタンパク質が 21% しかない。48% が脂肪、炭水化物が 31%。

ひよこ豆 (ガルバンゾ) は人気。ディップ的に食べられるフムスが特に。
やや脂肪比率は高いけど、炭水化物よりタンパク質を多く取れる優秀なマメ。

プロテインパウダーはあくまで「サプリメント
ホエイプロテインの品質は、原料を提供した牛の食生活にかかっている

食べたらちょうどいいエネルギーを得られ、ホルモンの働きが最適化し、一定の満足感が継続して脂肪の減少を促す炭水化物の量は人によって違う。 (p.193)

炭水化物の目安を 100g 以下 / day からはじめ、脂肪減少の様子と空腹感、エネルギーに満ちているか、というポイントで微調整していけば個人の最適摂取量を見極めることができる

果物の糖であるフルクトースは血流に達しないにも関わらずインスリン分泌を引き起こすし、GI 値も低い。摂取する甘味として理想的に思える。が、フルクトースの処理はゆっくり行われて、回り回って結局血流に入る。

炭水化物を取る最適なタイミングは?
=> 夜の方がよい。通説として「夜はあと寝るだけなので炭水化物を取るべきではない」と言われてきたけど、研究ではその常識と逆の結果が出ている。

1日の最初にたくさん炭水化物を食べてしまうと食欲が刺激され空腹を感じやすい
1日の初めの炭水化物量を押さえれば、1日を通じて蓄えられているグリコーゲンを使ってエネルギーを生成する

そして、摂るべき残りの炭水化物を夜に摂取すれば、貯蔵された脂肪が使用されるよりも先に貯蔵用のエネルギーが補充される (p.209)

ん?この文章は結局「夜に炭水化物食ってはダメでは」という結論に導いちゃうと思うんだけど
貯蔵された脂肪、使いたくない?
脂肪を使うフェイズは夜に炭水化物を食べる「前に」通過しているという想定か?

空腹状態では脂肪を燃やすホルモンの分泌が抑えられてしまう

レーニングの目的が脂肪を落とすことなら、事前に何かを食べることは逆効果になる。それが炭水化物となればなおさらだ。 (p.211)

炭水化物を食べるならトレーニングの「後」がよい. そうすれば、脂肪として蓄積されず筋グリコーゲンの再合成に使われる
レーニング後は炭水化物とタンパク質を食べる

体脂肪と食物脂肪はまったくの別物。
そもそも脂肪とは、特定の化学組成を持っている物質であるというだけの話

飽和脂肪はぎゅっと整列することができるので常温で固体。不飽和脂肪は液体。

エクストラヴァージンオリーブオイル (EVOO) は加熱するとあんまよくないので料理の仕上げに使うスタイルがオススメ

オメガ3が多いのはフィッシュオイル。DHA (ドコサヘキサエン酸) と EPA (エイコサペンタエン酸)

アルコールの特性
・燃料として一番に燃やされる
・体内でエネルギーとしての保存が利かない
代謝に有益な栄養素は一切含まれない

故にアルコールはエンプティカロリーという言説が広がっているが、
実際は、アルコールは脂肪の燃焼を「停止」させてしまう (脂肪のスペアリング (節約作用)) ほか、レプチンの抑制作用が働いて食物摂取のストップがかからない

水を多く飲むだけで身体はカロリーを消費しやすくなる

微量栄養素。亜鉛、鉄、カリウムなどが不足すると過食を招く。
何故かと言うと、生存に必要な栄養素が不足することになるので、やべー何か食べろと食欲を刺激するため。

カロリーを摂取してお腹を満たすことはできるが、真に必要な微量栄養素が身体に取り込まれない限り、食欲は何度でも襲ってくる。 (p.268)

少量から中程度のコーヒー (1日に1-4杯) を飲む人は、コーヒーを飲まない人 (や飲みすぎる人) と比べて内臓脂肪が少ないという研究がある
炎症に関連する遺伝子がカフェインで抑制されることもあり、長寿になると。
;; てっきりコーヒーダメって言われるかと思ったら. わりといいじゃん. 嗜好品という意味だとアルコールは取らないのがベストという結果だったので対照的

お茶のカテキンは燃料として使用するために脂肪酸を「駆り集める」。そこで運動をすればバッチリ。

摂取する葉物野菜は多ければ多いほどいい。とくに1日の最初に食べるとメリットが大きい

高血圧、それ自体が悪いわけじゃない。
高血圧は心血管疾患などの「原因」ではなく「症状」である、と

1日にティースプーン2杯程度 (5g x 2 = 10g くらいかな) の塩を摂取してもほとんどの人には問題ない
;; FYI: あすけんの基準は 1 日 7.5g 未満に抑えることが目標になっている。これは『日本食品標準成分表2020年版』に基づくもの

MCT オイルは medium - 中程度の長さの脂肪酸。一般的な消化プロセスを回避して素早くエネルギーになる
MCT オイルを摂取した人は、LCT ("long" chain) と比べて体重・体脂肪も減り、満腹感を強く感じたという研究あり。
MCT オイルを摂取すると、体重は減少しつつ筋肉量はキープできていた。カロリー制限を強いるダイエットは筋肉量を犠牲にしがちなので、これは対策となる。



not 脂肪セクション - 睡眠、知的能力などの改善

人間は脳のわずかな割合しか使っていない、というのは今や否定されている。そもそも期限はどっかの自己啓発書であり、科学的なデータはない。

神経科学の分野ではかつて、人間の脳は脳が成熟する二十代に入ると「固定」され、それ以降は最小限の変化しか起こらないと信じられていた。...しかし、...栄養が豊富な環境と健全なライフスタイルであれば、人生の早い段階だけでなく人生の後半でも、脳の可塑性は改善しうると判明した。 (p.312)

食べ物を脳に届けるには BBB をいかに突破するかがキモ。
水と電解質のバランスを保つ。脳のほとんどは水で、次に比率が高いのは脂肪 (11%)。ただ、体脂肪と同じで、食べた脂肪がそのまま脳の脂肪として使われるわけではない。
さらに体脂肪は「貯蔵脂肪」だが脳の脂肪は「構造脂肪」と分類される。

BBB をすんなり通過できる脂肪は、オメガ3脂肪酸である DHA。サケ、ニシン、イワシキャビアイクラなどに多く含まれる。
週に一回魚を食べる、というレベルで効果は期待できる。
EPADHA と事情は同じ。
植物性食品から摂取する場合は DHA ではなく ALA という形で摂取、体内でその一部 (摂取量の25%) が DHA になる

母乳の50%は飽和脂肪。乳幼児の BBB はゆるいのでそいつらが脳の構造脂肪に使われる。だが、大人になると BBB のセキュリティチェックが厳しくなり、食べた飽和脂肪が直接脳にいかなくなる。
この点で例外的に VIP 扱いされているのは (先述の DHA/EPA に加えて) MCT である。MCT は BBB を通り抜ける、と考えられている (by イェール大学のデータ)

(MCT は) BBB を通過でき、かつケトン体を産生できることから、MCT は直接的にも間接的にも、脳のエネルギー源になりうるものだと言える。 (p.326)

糖の過剰摂取とインスリン抵抗性はアルツハイマー病と強い関連性があり、"3型糖尿病" と呼ぶべきという示唆すらある

人工甘味料の危険。甘い味わいは通常何らかのカロリーを伴うのにそれがないため、脳の期待が外れる。
砂糖ではなく人工甘味料 (スクラロース) であっても、甘みを感じるだけで身体は騙されてインスリンを分泌する (by ワシントン大学医学部の研究)。

コーヒーを常習的に飲むと認知の低下を防ぎ、アルツハイマー病やパーキンソン病を発症するリスクが抑制される


睡眠に関しては著者の前著『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』に詳しいが、食事の観点からいくつか。

睡眠に関連するホルモンは腸で産生・貯蔵される。たとえばセトロニンの約 90% は腸に存在する。カルテックの研究によれば、セロトニンを賛成し分泌する腸内細菌とだけやりとりする細菌が見つかった。
安眠のための栄養素 (てかアミノ酸)、トリプトファン
トリプトファンを多く含むのは、鶏肉、ロブスター、卵、チーズ、豆腐、チョコレート (これまた"本物の"チョコレートを意味)、ほうれん草、かぼちゃの種、ピーナッツなど

カリウムは睡眠を改善し、入眠後に目覚める回数を減らす効果が期待できる。あとはカルシウム、マグネシウム、オメガ3も。

アルコールはレム睡眠反跳を引き起こすため、就寝時間近くに飲酒すると、回復睡眠の質が約 24% 低下する。大量に飲むと -40%。
最低でもベッドに入る 2-3 時間前には飲み終えていましょう。
あとは脱水に注意。水をたくさん飲む。ビールやワイン1杯あたりグラス2杯の水 (500ml) が目安

カフェインは睡眠の質を損ねる。カフェインの半減期は長い (5時間)。ベッドに入る6時間前にカフェインを摂取したグループも、睡眠の質が低下した。

霊芝 (れいし) と呼ばれるきのこは、寝付きを良くして、深い眠り (ノンレム睡眠) の時間を増やす効果がある。初耳だったけど調べたらサプリとか出てる。

必要な栄養素は食べ物からとるのがいちばん。サプリメント中心に健康になろうとしてはいけない。

『知ってるつもり 無知の科学』

2023-02-22 開始
2023-02-26 読了

原題 "The Knowledge Illusion"


あとがきに記載のある「本書の三つの主題」:

  • 無知
  • 知識の錯覚
  • 知識のコミュニティ

人間は「自分が思っているより」無知である
私達はみんな「知識の錯覚 (knowledge illusion)」を抱いている. 実際にはわずかにしか理解していないのに物事の仕組みを理解しているという錯覚.
自身の知識を過大評価する.

何でもできる/知ってる人はいない. だから人間は協力する
我々は自分が「知っている」ことと, 他の誰かが知っていることを区別することができない.
これは認知の特徴であると同時にバグでもある.

インターネットのおかげで, すぐ手が届くところに世界中の知識があると思うと, まるでそれらが自分の頭の中にあるような気になってしまう.
;; "検索すれば何でも分かるから学校は要らない" 的な極論言ってた人もいたな

知識を表現すること自体難しいし, とりわけ「自分が知らないことはコレです」と特定することは非常に難しい

個人としてどのような貢献ができるかは、知能指数より他社と協力する能力によって決まる部分が大きい (p.34)

ダニング・クルーガー効果。「完全に理解した」。

自分の知識を「どの程度」過大評価しているのか、を測定する方法。
まず最初にあるものをどれだけ理解しているか10段階で示してもらって、その後に説明させて、改めて自分の理解度を10段階で測定してもらう。
最初 8 とか言ってたけどいざ実際に自分の言葉で説明しようとすると、やべーしらねーってなってその後は 2 とかに下がるかも知れない。そこのギャップが「どの程度過大評価しているか」とみなせる。

熟慮は思考プロセスの一つに過ぎない。認知の最部分を占めるのは直感的思考
熟慮に関しては、コンピュータと人間の思考は似ている、と言えるかも知れないが、あくまで思考全体に対して言えば部分的な類似性にとどまる
脳は特定のタイプの問題を解決できるように進化してきた。"膨大な情報を正確に蓄積する" ことは、脳の得意分野ではない
脳の得意分野は「抽象化」

人間は「因果」を考える. 自然に因果的推論を行う。これはコミュニケーションにも通じる。
相手の行動の背後にある意図を理解し、相手が達成しようとしている結果を特定すること。これはあらゆる社会的交渉で行われる因果分析。
実験によれば、14ヶ月の幼児でも大人の意図を理解することができる。が、チンパンジーは大人でもできなかった。
;; 実験の内容にもよる気がする. けっこう高度な推論を必要とする内容だったはず. 簡単な意図の理解であればペットの犬とかとけっこう通じ合ってる事例を見聞きするし

古くから因果情報を伝える方法として「物語」が使われてきた

新たなアイディアが生まれた時、それを特定の個人に帰属させることはたいてい難しい
人は、チームで成し遂げた仕事における自分の貢献度を高く見積もる。

人間は自分が知っていることと他人が知っていることを区別できないが、その要素として accessibility が考慮されているらしい
ある最新研究に関する簡単な要約文を読ませて「このテーマについてどれくらい理解しているか」を自己判断する実験において、
書かれている内容 (つまり文章から読み取れる情報) がまったく一緒であっても、「この研究の詳細は DARPA が秘匿しており誰も閲覧できない」的な文言を追加するだけで理解度の自己評価が下がった。

知識の錯覚の裏返しとして「知識の呪縛」ってのもある. つまり, 自分があることを知っている場合, それを他人が「知らない」ということを想像しにくくなる. 自分の頭の中にあることは他人の頭の中にもあるはずだと思っちゃう

コンピュータにはあなたの「意図」を読み取ることはできない. あなたと志向性を共有することはできない. 目標を確実に伝えなければならない.
コンピュータには志向性を共有する能力がないし、それを獲得しつつある兆候も見られない。人間を理解することができない機械には、人間の心を読み出しぬくことはできない (だからコンピュータの反乱みたいな事態はあまり懸念されない、と)。

確かに操作者に対して具体的に何が起きているかは伝えなかった。しかしそれを機械に要求するのは酷だろう。それには機械が、人間に必要な情報は何かを理解する必要があり、それには人間が何をしようとしているかを理解する必要がある。... 機械はただの道具であり、人間と共通の目標を追求する真の協力者ではない。 (p.217)

船の GPS を信頼しすぎてしまった事故。知識のブラックボックスGPS を理解した気になっていた、とも言える。

正しい自己認識は「いま何が起きているか」を考える能力と不可分

専門知識を持った人にどうやって貢献するインセンティブを与えるか?
=> 知識コミュニティへの貢献は人間の本能の一つ。そこからインセンティブを作れる。

ダン・カハンの研究によると、科学に対する意識は社会的・文化的要因で決まる。エビデンスが合理的かどうかは関係ない。

それ (科学に対する意識) は信念とは個別に取り出したり捨てたりできるようなバラバラなかけらではなく、他の信念や共有された文化的価値観、アイデンティティなどと深く関わり合っているからだ。特定の信念を捨てるということは、他のさまざまな信念も一緒に捨てること、コミュニティと決別すること、信頼する者や愛する者に背くこと、要するに自らのアイデンティティを揺るがすことに等しい。 (p.239)

だから遺伝子組み換えや地球温暖化や進化論について、がんばって情報を伝えたところで人々の信念/意識を変えることはできない。
文化がわれわれに及ぼす影響は、啓蒙によって覆せるものではない。
;; つい最近スティーブン・ピンカーの『21世紀の啓蒙』読んだところ: https://memerelics.hateblo.jp/entry/20230208/1675850233

新しい技術や科学の発見について、ほとんどの場合、十分な知識を得ることはできない。だから信頼できる人々の意見をそっくり受け容れるしかない。

科学的には、バイオテクノロジーの分子技術による品種改良は安全である、というはっきりした結論が出ている by アメリカ科学振興協会 (American Association for the Advancement of Science; AAAS)

食品に放射線を照射して殺菌する「食品照射」は, 放射線という単語を使わず「低温殺菌」と呼ぶことで受容度が高まった
ワクチン接種が自閉症を引き起こすという説、誤っていることが証明されている。

社会問題、問題の理解度は低いのに世論は驚くほど極端になりがち

問題に対する強い意見は、深い理解から生じるわけではない。むしろ理解の欠如から生じていることが多い。 (p.257)

因果的説明をさせてみると、極端な意見を持ってた人もマイルドになる... タイプの問題もある。
たとえば道徳的なもの何かは、ダメなもんはダメだ、という反応になって因果的説明をさせても極端な意見は変わらない
神聖な価値観は問題を単純化する。

英雄信仰。ある成果や大きな変化が特定の個人に帰属させられがち。そうすれば複雑さを無視して単純に把握できるし、そもそも人間は物語を好むようにできていて、英雄ストーリーはすっと受け容れやすい。
人間の記憶は有限で、だから推論能力と抽象化でものごとをまるっと把握する性質がある。英雄信仰はそのひとつの手段。

知能を評価する最も良い方法は、個人が集団の成功にどれだけ貢献するかを評価することである。 (p.303)

具体的にはどうするのか?
=> さまざまな集団における個人の貢献を測定する。その人物が居合わせた時に集団が問題解決に成功/失敗した頻度。

;; なるほど. 納得感はあるけど, 仕事のパフォーマンス評価を念頭に置いて考えると, 時間かかりそう & 測定のため「だけ」にチームをシャッフルしてデータを集めるのちょっと躊躇うコストの高さだな
;; 本書の事例だとホッケーチームである選手が場に出た時得点したかどうか、みたいな、クイックな施行が可能なシチュエーションが取り上げられていた。
;; つまり仕事においても、チーム組み直してのプロジェクト成否、とかじゃなくて、もっと小さな粒度でデータを測定すりゃいいのか?

アイディアよりもチームの質が大切。Y コンビネータなんかは、事業内容じゃなくてスタートアップのチームを見る。
教育は知的独立性を高めることが目的ではない。他者と協力する方法を学び、自分に足りない知識、逆に貢献できる知識は何かを知ることが大切。
ジグゾーメソッドあるいはピア教育と呼ばれるやり方があって、生徒それぞれに違う分野を調べてもらい、異なる専門家をグルーピングして協力して課題にあたらせる、というもの。

本物の教育には、自分には知らないことが(たくさん)あると知ることも含まれている。(p.323)

文章を理解するには意識的に読み込む必要がある。ふだんの「流し読み」習性を断ち切って、深く分析する。

科学者が真実と考えることの大部分は、信じる気持ちに支えられている。神への信仰ではなく、他の人々が真実を語っているという信頼である。ただ宗教と違うのは、科学では「真実」とされるものに疑問が生じたときに、よりどころとすべきものがあることだ。それは立証の力である。科学的主張の真偽は確認することができる。 (p.328)

いい話。STAP 細胞の事案とかはその意味で極悪
科学においては、重要な発見をすることと同じくらい、その発見の重要性を他者に納得させることが大切。

錯覚は完全に取り払うべきもの、というわけではない。幸せは主観的なものであり、錯覚が幸福に寄与していることもある。

『21世紀の啓蒙』スティーブン・ピンカー

2023-02-06 開始
2023-02-07 読了

原著タイトル: "Enlightenment Now: the case for reason, science humanism, and progress"
スティーブン・ピンカー, 原著 2018 年出版, 上下巻

希望の書。世界はそんなに悪くない、我々はここまで到達してこの先もやっていけるという、データに基づいた楽観論。
刊行された時点のアメリカはトランプ大統領、世界は最悪だ悪くなっていく、戦争の真っ只中だ、みたいな世論だったので、序文でそのへんへのカウンターにもなるぜという話をしている。ただ本書自体は世代を超えて通用するないようですよと。

前著に当たるのかな?『暴力の人類史』の振り返りと批判への反論も組み込まれている

まず目次
啓蒙主義。知る勇気。科学による無知と迷信からの脱却。富と進歩と平和。
人間を理解する鍵は
エントロピー
・進化
・情報
進歩恐怖症。寿命、健康、食料、富、戦争と平和。世界は良くなっていることを認めたがらない人々。(ファクトフルネスとかでも書いてたな)
不平等は本当の問題ではない。環境問題は解決できる。民主化、偏見と差別の減少。
ここまで上巻。
下巻の目次も先取り。
人間は賢くなっている、生活の質も上がっている。
幸福感は豊かさに比例しない。
存亡、世界の滅び方とその現実味。進歩は続く。
理性とヒューマニズム、科学。

なぜ生きなければならないのか?という素朴な疑問に対する答え、啓蒙主義
感覚を持つ存在として、学び考え芸術や科学に携わり、生命をつなぐことができ、そしてさらに理性によって他の人も感覚を持つ存在であることがわかるので、自分が得られて当然と思うものを他人にも与える義務がある、と

"いまある制度や仕組みを壊せば世界はよくなる" という思想は恐ろしい

啓蒙主義の原則「わたしたちは理性と共感によって人類の繁栄を促すことができる」
イマヌエル・カントが 1784年に『啓蒙とは何か』という小論を書き、そこでの答えは「人間が自ら招いた未成年状態から抜け出ること」
知る勇気。

熱力学第一法則: エネルギーは保存される
熱力学第二法則: 孤立系のエントロピーは減少しない
熱力学第三法則: 絶対零度には到達できない

熱力学第二法則の "孤立系において" という部分を忘れてはならない。
生物は開放系である。環境からエネルギーを得て、エントロピーに抗って自己を保持しようとする

科学革命によって「宇宙は目的に満ちている」という直感を論破できるようになった
"何事にも意味がある" という直感を補強するために人間は、宇宙の意思、カルマ、宿命、霊的なメッセージ、神、みたいな詭弁を生み出す

人間の認知力
・抽象化
・組み合わせ/繰り返し

啓蒙主義は誰も異論を唱えないように思える。いやそんなことはない。
啓蒙主義 (e.g. ロマン主義) がずっと根強く抵抗を続けている。進歩は不要、衰退を支援し、そんなたくさんのことを知らなくて良いとされる。
だから著者は啓蒙主義を擁護する。
もっともわかりやすい反啓蒙主義は宗教的信仰、つまり「もっともな理由なく超自然的存在を信じること」である。
その他、ナショナリズムなど、人間をより大きな組織・存在の一部品であるとみなすもの。

ほぼ二世紀前から多様な分野の著述家たちが、現代文明は進歩を享受するどころか衰退の一途をたどっていて、もはや崩壊寸前だと断言してきた。(...中略... ) どうやら世界はずいぶん長いこと終わり続けているようだ。(p.77)

著者が一生懸命サポートしようとしている啓蒙主義、これに真っ向から反対するような "反啓蒙的" な人と関わる機会がない。せいぜいネットで遠巻きに見る程度で、説得したり対応に頭を悩ませることがないので何か他人事になっちゃう。
まだ上巻の前半だが、自分自身の思考とかぶることをずっと喋っている印象で、同じ思考の人の意見を読むことでうんうんと満足感を得ることはできるけど、あまりこう世界が広がっているようには思えない。

未熟な道徳的直感は悪い事柄を十把一絡げにし、その元凶を一つ見つけ出してすべての責任をなすりつけようとする傾向があるが、実際には、わたしたちが気づいて排除できるような種々の「悪いこと」(エントロピーと進化によって次々と生まれる)について、それらをひとくくりにできる現象など存在しない。(p.100)

前著『暴力の人類史』への反論にけっこう紙幅を割いていて、うんざりして諭すような書きっぷりから、なかなか参ってるんだなというのがわかる。そういう人たち別にあなたの次の本買わないからスルーして良いような気もするがな...

知識人とメディアは過度な悲観論に傾く。
これには受け手側の事情もある。人々は、悲観論とは「私達を助けようとするもの」で、楽観論は「自分たちに何かを売りつけようとするもの」だと感じる傾向にある
悲観主義にはもちろんいい面もあるが、やりすぎはよくない。

世界の平均寿命は2015年時点で71.4歳
乳幼児死亡率もぐいぐい減少してる
19世紀には、スウェーデンのような比較的豊かな国でも子供の1/4は15歳までに死んでいた


歴史上、飢餓はあたりまえのものだった
クワシオルコル - 極度のタンパク質不足。腹がぽっこり膨れるやつはコレ.
現在、肥満は公衆衛生的には問題だが歴史的には素晴らしいこと

マルサスは、今後飢餓問題は悪化していくだけだと予測したが、実際は科学技術の発展によって解決というか改善に向かった
具体的には 1909 年に完成したハーバー・ボッシュ法。窒素肥料の大量合成が可能になった

今日わたしたちが手にしている農作物を窒素肥料なしで栽培するとしたら、ロシアと同じくらいの面積を新たに農地として開拓しなければならないだろう (p.151)

ハーバー・ボッシュ法に加えて大勢の命を救ったのはノーマン・ボーローグ
地道な交配作業を続けて収量が以前の何杯にもなる品種を開発した。コムギ、トウモロコシ、コメ。
;; このへんの改善、名もなき人々の長年の積み重ねだと思ってたけど、特定の一人の成果だったの?

環境科学者のジェシー・オースベルによると、すでに世界は最大のうち面積に達した。今後我々が必要とする農地面積は増えることはない。技術発展によって減っていく一方。

80パーセントの人が、すべての食品に「DNA を含む」という表示を義務づける法律を支持しているという (p.154)

20世紀の飢餓の最大要因は共産主義と政府の無策。

世界の所得分布は改善しており、極度の貧困状態にある人の割合も減少している
貧困からの脱出を可能にしたイノベーション
・科学の応用
・制度の構築
・価値観の変化 - マクロスキーの言う "ブルジョアの徳" の承認

経済的不平等の度合いは「ジニ係数」で測る (0 から 1 までの値)
不平等自体は問題ではない。問題は貧困、あるいは不平等でなく "不公平"。
トマ・ピケティ『21世紀の資本』やハリー・フランクファート『不平等論』などに詳しい

ほとんどの人は自分の豊かさ/貧しさそのものではなく、周囲の人々より上か下かで幸福 or 不幸を感じるもの
これは人間心理の話。古くから社会心理学で「社会的比較理論」「準拠集団」「状態不安」「相対的剥奪」などいろいろな言葉で論じられている

いまの発展は持続可能か?いやそうではない、というのが世間の答え。
著者も環境問題が小さな問題と言うつもりはないが、解決可能であると考えている。

人間には公共心があるとはいえ、数十億の人々が自身の利益に反する行動を一斉にとるはずだという甘い期待に、地球の大事な運命を託すのは浅はかすぎないだろうか (p.262)

脱炭素の第一の鍵はカーボンプライシング。
二酸化炭素排出量に応じて課金する。
二酸化炭素排出量をへらすためには原子力にもっと頼らなければならない。

戦争は違法である、という国際合意が国際秩序をよくした。
とはいえ、と著者は 2014 年のロシアのクリミア併合にふれる。
世界政府ができないうちは、国際規範など破っても罰を受けずに済むわけで、そこに効力など無い、というシニカルな考えもある。
が、コレに対する答えは「道交法だろうが何だろうが、法は破られるときは破られる。でも何もないよりは、不完全でも法がある方がいい

テロの危険は過大評価されている。
自動車事故のほうがよく死んでいる、的な論。
あと、テロは小規模な暴力なので長期目標を達成する力がない。局地的に破壊をもたらすことはあっても、長期的には収まりつつある

ここまで上巻
下巻はちゃんと読んでメモする時間がなかった。再読したら追記
拾ったのは、ニーチェの思想はヒューマニズムの敵を育てた、くらい。