『デフレの正体』藻谷浩介
20150301開始,20150302読了
バブル崩壊時...ではなくその後の2002年あたりから酒類販売量, 栄養摂取量が減り続けている 種明かしはのちほど
日本には個人所得が消費に回らない構造がある
経産省「小売販売額」をデータに使ってる. 信頼できるデータだそう
種明かし. やはり人口変動. 人口変動が原因で02年あたりを区切りに"就業者数"が減少に転じ, それがもろもろに波及している
総人口ではなく生産年齢人口. 総人口の減少よりも生産年齢人口の減少だけ取り出したほうが多いという事実. つまり働く人ががっつり減って, 働かない年齢の人がそれをちょっと埋め合わせているのか. まぁこの少子化時代子供が増えるわけねえしジジイだけがもりもり増えてる.
青森県の立場で言うと納税者が減って福祉対象者の老人が増えて厳しい状況
「生産年齢人口減少」と「高齢者激増」の同時進行を, 「少子高齢化」というズレた言葉で表現する習慣が, 全国に蔓延しています.
p.96
少子高齢化, という言葉は少子化と高齢化という別の事象を一緒くたにしており, 子供ば増えれば高齢化は防げるという幻想へ繋がる言葉. さらに悪いことに一番の問題「生産年齢人口の減少」を覆い隠す表現になってしまっている.
で, 首都圏でも同様に生産年齢人口(15-64歳)が減少している. 5万人くらい.
子供じゃない. 東京都は日本一出生率の低い都道府県. 生産年齢人口も減っている.
では誰が106万人も首都圏に増えているのか. => 65歳以上の老人. 首都圏(東京+周辺3県)に116万人も増えている. (00-05年)
生産年齢人口や高齢者人口は総務省統計局のwebに置いてるよ
「首都圏は若い」「地方はともかくワカモノが流入する首都圏は大丈夫」というのは幻想
このような構造変化が起こっていると, 企業に蓄えられた利益は人件費増加に向かわない. 配当利益に回っていくはず. しかしそこで利益を得るのは高齢者. 高齢者は消費のモチベーションがない.
「何歳まで生きるかわからない,その間にどのような病気や身体障害に見舞われるかわからない」というリスクに備えて,「金融資産を保全しておかなければならない」というウォンツだけは甚大にある.実際,彼ら高齢者の貯蓄の多くはマクロ経済学上の貯蓄とは言えない.「将来の医療福祉関連支出の先買い」,すなわちコールオプション(デリバティブの一種)の購入なのです.先買い支出ですから,通常の貯金と違って流動性は0%,もう他の消費には回りません.これが個人所得とモノ消費が切断された理由です.
p.102
ふつうの貯蓄は流動性高いけどコールオプションとして医療費に投資してしまうとそれがreleaseされるまでどうしようもない
日本は平均寿命高いので,ようやく死んだとしても相続する方がもう60代後半とかいう自体で,これまた消費に回らない.
首都圏ではなく"東京都"だけ取り出すといちおう生産年齢人口が1万人増えてる.が,65歳以上が39万人という圧倒的増加を見せている
実際の原因は加齢. 00年時点で60-64歳だった人口が,10-14歳だった人口よりも60万人も多かった. ふたつの世代の出生率を考えるとこうなるのは予測できる. ;; 結局人口構造かい
沖縄の種明かしは,日本で一番出生率の高い県であることに加えて,沖縄戦で当該高齢者世代がけっこうな数犠牲になってるから.
日本で一番人口が多いのは1940年代後半生まれの「団塊の世代」
上記の「高齢者入り」した世代はまだ1930年代生まれの話.じゃあこれから10年後どうなってしまうんです?
100年に一度の不況のせいにされている事象は,実は「2000年に一度」(?)の生産年齢人口減少という構造問題に帰着できる.
首都圏の高齢者福祉の現場がひどい有様で, 客は増える一方なのに人出が足りず. 現場が厳しすぎるので体力がある若者ですら定着しない.
人口ボーナスと人口オーナス. 景気の波など打ち消すほどの力がある.
戦争当時一億一心とか言ってたのは朝鮮・台湾も加えた数値で,日本列島に限れば7000万人くらい.
日本史上最も数の多い団塊世代が住宅を買い終わってしまえば,日本史上二度と同じレベルの住宅需要が発生することはないわけです.
p.124
このへんの話は著者のオリジナルではなく,たとえばバブル崩壊途中くらいの時期にマッキンゼー東京支社長の横山氏が『成長創出革命』という本でバブル経済は人口構造で説明できるとしている.
就業者数も生産年齢人口の増減が決めている.有効求人倍率とか見なくていいよと
で,どう対処するか? 人口減少は生産性の上昇で補う!という思考はダメ.
ふたつの間違いがある.
まず(1)の間違いから指摘する.
- 生産性 = 労働者一人が生み出した付加価値額
- 付加価値額 = 企業の利益 + 人件費や賃貸料などコストの一部
- ※ 地元に落ちるコストは他の企業の収入なので地域経済で見ればプラス
ハイテク = 高付加価値,という思い込み.実際には間違い. サービス業のほうが,売上の割に人件費がかかるので付加価値が高い(前述のとおり人件費も付加価値額に加える)
付加価値額が増えるかどうかは技術力ではなく,その商品が原価より高い値段で売れてマージンを取れ人件費が支払えるかどうかにかかってる.
これに関しては株主至上主義にも問題がある.株主が株持ってる間だけ利益を上げることが目的化すると,短期的には人件費などのコスト削って足元の四半期の利益だけを上げれば良くなる
所得が低く消費性向の高い従業員に支払う給料を削って,何も消費しない高齢の金持ちに配当を回す仕組みはいかがなもんかと
生産性とはハイテクによって労働者を減らし = 割る分母を減らすことだと思ってる人が多い
「労働者を減らして生産性を高めよう」というのは逆効果
日本の産業は,付加価値額を上げる方向に,人減らしではなく商品単価向上に向け努力すべきなのです.その結果として生産性が上がるのです.
p.158
生産性向上例: カリフォルニアワイン.もともと評価が低かったが,人手をかけ品質を向上させることでブランド力を付けて価格を上げることが出来た.それで付加価値額が高まった
今起きている現象は,人口ボーナスで膨れ上がった特定産業の生産力が,人口オーナス下で維持可能なレベルまで回帰しようとしている
ではどのような努力をすべきか?
間違った提言を批判していく
やるべきことは以下.
- 生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める
- 生産年齢人口に該当する世代の個人所得総額を維持・増加させる
- 生産年齢人口+高齢者の個人消費総額を維持・増加させる
この(1)(2)(3)と関係ない数値操作でなんとなくGDPが数値上改善してるように見えても根本的な対策にはなってない
×「経済成長さえすれば,GDPさえ増やしていけばなんとかなる」
方向が逆で,生産年齢人口の減少によって下振れする個人所得・個人消費・企業業績をなんとか支えて向上させていく努力の先にGDPの維持・成長がある.
「規制を緩和して経済が自由に回るようにあなるえば万事はいい方向に解決する」というアメリカ由来の理念を,自分も共有するフリをした一部の日本企業が,「雇用に関する規制緩和を活かし,給料や福利厚生関連費用の安い非正規社員を増やすことでコストダウンする」というビジネスモデルに傾倒しました.そのためますます「若い世代の給与の抑制」が深刻化し,かえってアメリカの望んでいる日本の内需拡大が遠ざかっています.
p.181
×「インフレ状態に誘導して,貯金が目減りするまえに使ってしまおう」といういわゆるリフレ論
インフレ誘導は「どうすればその状態になるのか」道筋が見えない提言.日銀が規制緩和して貨幣供給が増えれば...と言うが,実質的にゼロ金利になって十数年一向にインフレになってない.
;; 本書は2010年.2014年の日銀黒田総裁による"バズーカ"金融緩和策は一定の効果もたらしてる感はあるがやっぱり個人所得・個人消費まで資金が回りきってないっぽく高齢者医療費コールオプションに吸い込まれてる
×「日本はモノづくり・技術力を強めていくことが生き残りのカギ」
もちろん私は「モノづくり技術の革新」の重要性自体は,一言も否定していない.ただ「それは日本が今患っている病の薬ではない」と言っているのです
p.188
いま日本に必要なのは技術力で外貨を獲得することではなく,獲得した外貨を国内で回すこと
×「出生率をあげよう」
これは前述(1)の目的に繋がるようで良さそうに見える.もちろん出生率上げるのは大事だし,いま産みたいけど経済的な理由で止めてる人をサポートするだけで今より改善するだろう.
が,出生率を挙げても出生者数はそう簡単には増えない.率と絶対数は違う.
出生率が上がっても,出産適齢期の女性の数の増減という絶対的な制約(上限)が存在.そしてこれは20-40年前の出生者数がそのまま反映されるもので後付でどうこうできない
×「外国人労働者を受け入れよう」
これもやってもやらなくても数量的な効果に繋がらない.数千万人単位で動く生産年齢人口減少を補えるだけの外国人流入はありえない.
無理して門戸を開こうとするとそこのコストは結局現場・現役世代に乗せられる
ではどうすればいいのか
- 解決策(1): 高齢富裕層から若者への所得移転
- 解決策(2): 女性の就労と経営参加
- 解決策(3): 労働者でなく外国人観光客・短期定住者受け入れ
高齢富裕層から若者への所得移転
若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げていく.所得1.4倍増政策.
生産年齢人口が3割減になるなら,彼らの所得を1.4倍にしてやればいい
消費性向は年代によって異なり,子育て中の世代が一番高い.そこのちょっと前に金をぶちこむことで消費額が上がる
人口が倍増してた高度経済成長期でも,10年間で人口あたり所得の倍増が可能だったから「35年で生産年齢人口1人あたり所得1.4倍」なんていけるいける
若い世代 = 生産年齢人口のなかでも子育てしてる(可能性のある)20-40代前半を念頭
高齢者富裕層は消費しない.税務署に申告された個人所得が04-07年で14兆円増えたのに消費は一向に増えなかった
団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料・福利厚生費へ回すこと.民間企業が主体になってやれる.
;; おっさん退職してコスト下がるなら黙って下げたいのが人情
理想論なのは著者も認めてるが例に「エコ」を挙げてる.エコも短期的にはコスト増大でしかないのになぜ推奨されてるのか? => たぶん公害の記憶が効いてる.今世紀前半の日本の問題は環境問題ではなく内需の崩壊なので,それに関心を持てばいい
エコと同じくらいの,いやそれ以上の関心を持って若者の給与を上げることが企業の目標になっていなくてはおかしい.
p.211
;; 目に見えてわかりにくいからなぁ.わかりにくいからこの本が意義あるわけだし
政府がISOのように若い世代への所得移転・子育て世帯配慮を掲げる企業の守るべき基準を作って普及させるのも一手
任天堂のWii, ディズニーシー,ユニクロのヒートテックなど,高齢者でも消費する(それでいて年寄り臭さがない)ものを開発した企業が最高益を更新してる.
あとは生前贈与を促進.死ぬのを待って,んで受け取る人ももう67歳...というループ自体を抜け出すためには生前贈与.
として,その前に生前贈与したらどうよと導いてやればいい
女性の就労と経営参加
日本女性の就労率45%は世界的に見ても低い水準.せっかく高等教育受けてるし日本語も喋れるのにもったいない
財布の紐は女性が握ってることが多いので女性経営の方が消費を呼び込みやすいかもよ
若い女性の就労率が高い県ほど出生率が高い(と言いつつ相関係数2が0.29かよ...)
いまどきダブルインカムじゃないと子供3人持つのは難しい. 出生率を2.0以上に引き上げるには「たまたま条件の揃ってる夫婦」に3人産んでもらうことが肝要
実際高度経済成長期以前は女性も働くのがふつうだった
女性の結婚退職が望まれたのは,どんどん学校を卒業してくる若い男性のために席を開ける必要があったから.でももう十分.
労働者でなく外国人観光客・短期定住者受け入れ
問題は労働力の減少ではなく消費者の減少なので.
高齢者激増に対処する「船中八策」
問題が大きすぎるのでコレといった劇薬はない.が,著者の個人的な意見を述べる章.
まず,普通に暮らしていける蓄えのある高齢者には政府の資金を回すべきではない.生活保護の充実に充てる.ただし医療と教育は例外.
能力がある子供が親が貧乏であるために機会が与えれないのも問題だが,それ以上に「登ってくるだけの能力がない人間が地位を得る」ことも問題 ;; 言うなぁ
ちなみにここの「能力」とはお受験テストで点数を取ることではなく十分に稼いで家族と楽しく暮らし,社会にも貢献していく「生きる力」のことね,と
あとは「若者から徴収した金銭でお年寄りの面倒を見る」という戦後半世紀使ってきた方針を今世紀は放棄する
そもそも中流層以上も年金受給者であれば政府の金銭で支援していたというのがおかしい(維持可能ならいいけど資金繰りがそもそも不可能)
デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷 浩介
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