『人間悟性論』 ジョン・ロック
人間悟性論〈上巻〉 (岩波文庫)
人間悟性論〈下巻〉 (岩波文庫)
訳者解説
- 人間悟性(知性)のありかたを究明
- ロックはスピノザと同年代.
ロックの言う観念(idea)はデカルトの言う我思ふ(cogito)と同一のものとおもわれるが, 哲学の形はずいぶんと違っている.
原理も観念も生得的ではない
- 観念に就いて
- 言葉に就いて
- 知識と蓋然性に就いて
序論
- 私が憂鬱に過ごしていた時, ときどき気晴らしになってくれたものを読者に贈る.
- 悟性の研究は愉快にして有用. 人間の知識, 信念, 意見, 同意について研究する. その物理的基盤については考察しない.
- 我々の能力は我々の状態と関心に適している. 心は限られている.
- 我々がすべてのことを知り得ないからと言ってすべてのことを疑うならば, 翼がないからと言って足を用いずじっと座って死ぬ人に同じ.
- ;; デカルトの立場に反対を表明?
1. 原理も観念も生得的ではない
- 普遍的承認は何等生得的なものを證明しない.
子供や白痴には知られていないことなので生得的ではない.
ひとは理性を用いるようになる時"これ"に同意する, という仮説が立てられる.
- しかしそれは誤謬である. 理性は既知の原理/命題から未知の真理を演繹
...以上のように生得的原理を否定, 続いて実践的原理を否定にかかる.
- 徳は一般に生得的だから是認されるのではなく有益だから是認されるのである.
我々が神に対してなさねばならぬ服従が非常によく理性の光に一致する
世界には相反する諸原理がある.
- たとえ理性から遠ざかっていようとも, どこかある場所では神聖なものである.
神の観念は生得的ではない. 人間は自分自身で考え, 知らねばならない.
生得的原理があるよ説はどこから来るのか?
- 一度"生得的である"と承認されると, 怠け者を探索の苦労から免れしめ, 又疑念を有する人の研究を止める. 先生を気取る人は疑われぬ原理を持つことは便益であった.
以上のように生得的な原理/観念が存在しないとすれば, 人間はどのように悟性(知性)を獲得するかというのが次の論点となる.
2. 観念に就いて
- 観念一般とその期限, 感覚と反省.
- 単純観念と複雑観念.
無限. 快楽, 苦痛, 力に就いて. 関係, 原因と同一性.
観念は思考の対象である.
- 観念はどこから来るか? 前章で論じたように観念は生得的ではない.
- 観念は感覚(経験)または反省から来る.
- 感覚は外界対象に対する知覚, 反省は内界の我々の心に対する観察.
- 感覚による観念は, 感覚対象を起源とする観念.
反省による観念は, 心の作用を起源とする観念.
- 著者の言う「反省」は内感(internal sense), まるで外界に触れるようにして自らの内に作用すること.
子供が獲得するのは感覚による観念 -> 反省による観念, の順.
単純観念.
- ただ検知してそのまま受け取る観念. これに関して悟性はきわめて受動的である.
- 心はこれらの観念を作り出すことも, 消し去ることも出来ない.
単純観念の多くは名前を持たない.
e.g. 固體(固体)性. 触覚によって受け取る観念. 空間とも硬さとも別である.
反省による単純観念. 主要な心の動きは以下の二つ.
- 知覚または思考
- 意思(volition)または意志(willing)
単純観念はすべて我々の知識の素材である.
知覚に就いて
- 反省による最初の単純観念, "知覚"
心が印象を受けるときにのみある.
知覚は知識の入り口である
- 人/生物の知覚パターンが多いほど知識が多くなる.
把持に就いて
把持(はじ), しっかり持つこと. [現]保持.
心が感覚/反省から受けた単純観念の保持. これは以下の二つから成る.
- 考察(心に運び入れられる観念を客観的に見る)
- 記憶(視野の外に捨てられた観念を心のなかに再生する能力)
注意, 反復, 快楽, 苦痛により観念が固定化される.
判別
- 判別なくしていかなる知識もない.
- 心は二つの観念が同一であるかを知覚する.
- ;; 比較モナド?
複雑観念に就いて
- 複雑観念は, 単純観念をもとに心が作り出すもの. 以下の3パターン.
- 様態(modes) -- それ自体存在せず, 実体に依存あるいは実体の性質.
- 単純様態
- 混合様態
- 実体
- 関係
- 様態(modes) -- それ自体存在せず, 実体に依存あるいは実体の性質.
時間について
- 時間(duration)は推移する延長である
- 任意の異なる時間の長さ. 時間, 日, 年, 月, 永遠.
- 太陽, 月の周回が最も適当な時間の単位.
數について
- 數(数)は最も単純かつ普遍的な観念.
- 數による証明は最も精確である.
- すべての計量しうるものを計量できる.
思考の様態について
- 感覚 -- ある観念が感官によって悟性の中へ入ること
- 外部の感覚なしに再度戻ってくるならば記憶(remembrance)
- 心によって探し求められ再び眼界に持ってこられるならば想起(recollection)
- 注意深い思考のもとに長く保たれるならば考察(contemplation)
力に就いて
意志と悟性は二つの力.
自分自身の行動を始め, 抑え, 続け, 終わらせる力を自らの内に見出す. この心の力が自由である.
- 自由は意志には属さない.
- 人間すなわち作用者に属する.
人の意志が自由であるかどうかと問ふのは, 彼の眠りが速いか, 又は彼の徳が四角いかと問ふのと同様に無意味だといふことになるからである. 一つの力に他ならない自由は作用者にのみ属し, 同じく一つの力に他ならない意志の属性または様態ではありえない. p.236
- 意志を決定するのは(大いなる善などではなく)不安, 切迫した目の前の不安である.
- 不安の除去が幸福への第一歩であるため.
同一性に就いて
- 人間の同一性は意識, 意識に依る自己が同一性を決定する.
- 意識のみが自己を成す.
3. 言葉に就いて
ここから下巻.
- 言葉一般, 言葉の意義.
単純観念の名前と混合様態, 関係の名前.
言葉は観念の感覚的符号
- すべてのものに固有名詞を与えることは出来ない
- 抽象化, 一般化して名称を与えられる.
- 一般と普遍は悟性の創造物である.
- 名前を持った抽象的観念が"本質", しかしそれは産出することも破壊することも出来ない.
4. 知識と蓋然性に就いて
- 知識一般. 我々の知識の程度, 真理一般, 普遍的命題と公理.
判断, 蓋然性, 同意と理性, 信仰. 熱狂, 不正, および科学について.
我々の知識は我々の観念に関するものである.
知識の程度に就いて
- 直感的(観念をそのまま知覚)
- 論証的(心が観念の一致/不一致を知覚する場合)
知識の実在性に就いて
- 観念から成り立つ知識はすべて幻想か? 否, 観念が物と一致する場合は幻想ではない.
- すべての単純観念が"そう"である.
真理一般に就いて
- 真理とは, 符号によって指示されるものの一致/不一致にしたがって, その符号を結合/分離することに他ならない.
ゆえに真理は本来命題にのみ属する
判断はそれより先に到達するであろうが, それは知識ではない
- 公理は自明である