『揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ』秋田純一

2022-05-15 開始
2022-05-16 読了

タイトルの通り。なかなか尖った本
コンピュータの中身が見えなくなってきた。古い世代の人はゲームやりたくてプログラム覚えたりしてた。
じゃあ揚げて炙って中身を観てみよう!というのがメイン
だが、メインに至る前 (1,2,3 章) はわりとスタンダートに教科書的な内容で, 最後の 6,7 章は揚げ炙り関係ない。
揚げ・炙りが使われてるのは 4,5 章だけで、全体の 1/3 といったところ
取り出す手段として揚げ・炙りを使ってるところもあり、わりとふつーに分解でよかったのでは?という気にもなる
なんか温度で起こる変化があって、それでなかなか見えない知見が出てきたりするのか...?

最初の教科書的なあたり

1980年代のパソコンには、パソコンの回路図と OS のソースコードがついてた。完全に理解することができた。

『ハードウェアハッカー 新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』
ブラックボックスなハードウェアを合法的に分解して中身を知る本。おもろそう

集積回路に回路をどんどん細かく詰め込んでいく
最近のトランジスタは、幅が原子数個分 (10nm くらい)。
いや数個ってことないか. Si (シリコン) 原子 0.2nm (2 オングストローム) なので, 10nm あれば 50 個は並ぶ
ここまでトランジスタが小さくなると、量子的な効果が無視できなくなってくる
トンネル効果によって「ゲートリーク電流」が発生する

IoT やら HTTP やら OSI layers の話やら. このへんはいいか

コンピュータの入出力 - HID (Human Interface Device)
メモリモジュール。物理実体としては、アドレスとデータからなる。

マイコン (Micro Controller) とは

  • 数百円と安価で, 性能は一般的なコンピュータよりずっと低い
  • CPU, memory, IO など構成要素がワンチップに乗ってる
  • 用途に応じて多種の IO がある (タイマ, パルス生成, シリアル通信ポートなど)

マイコン規模ならコンピュータの動きをまるっと把握できる

N 型半導体 ... 余った電子 (自由電子) がいる
P 型半導体 ... 共有結合のなかに電子が一個足りない (正孔 = ホール)

MOS (Metal-Oxide-Semiconductor) トランジスタ. N型-P型-N型の構造になってる

論理回路。加算が究極の構成要素。
ただの演算回路から CPU へ。


さて、揚げて炙っていく。
PCB (Printed Circuit Board / プリント基板) には2つの方法で部品を乗せる

  • 挿入実装部品 (through hole)
  • 表面実装部品 (SMD: Surface Mout Device)

まず鍋に基板と油を入れます。油の量は基板が軽く沈むくらいで十分です。( p.79)

200 度を超えると、基板上の部品を軽くつつくだけで外れるようになる。

そして黒いチップを炙って半導体を取り出す。外側のプラスチックが炭化してもろくなり、崩せる。
炙って手に入れた

  • ATmega328P
  • ATmega328PB

の2つを比較する。後者のほうが安い上に性能がいい。
むき出しにして写真を撮って、画像の比率からざっくり長さを算出。データパスの長さが、

  • ATmega328P ... 1.8μm
  • ATmega328PB ... 0.6μm

みたいな結果になった

あと謎のパチモンチップを分解していたりする。
これ著者がいちばん楽しいやつやんw

;; ATmega328 みたいなやつ, ErgoDox 組み立てるとき部品集める際に出くわした気がするな...

『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ

2022-05-11 開始
2022-05-13 読了

2017年 出版
原著はイタリア語。タイトル原題 "L'ordine del tempo"
Google 翻訳にかけると日本語で「時間の順序」、英語だと "The Order of Time"。実際に英語版はこのタイトルで出版されている。

時間が存在しない云々は著者が新しく発見したわけではなく、既知の事実を詩的に表現し直しただけっぽい。

6年くらい前に
http://georges-canguilhem.blogspot.com/2012/03/blog-post_18.html
この方のブログを読んでジュリアン・バーバーの同主張に出会っていた

原題が英語で言えば "The Order of Time" なので、著者が言いたいのは「時間がない」ということじゃなくて「時間という概念はそれ自体で世界に最初から存在するもの (raw data 的なもの) ではなくて、人間が世界を解釈する過程で生み出したもの。その解釈において"順序"が特別な役割を持つ」みたいなの?

数式はほとんど登場せず唯一出てくるのは熱力学第二法則まわりだが、
「方程式の中のこの変数が」みたいな話を文章で展開するのでむしろ数式見せて欲しい気もする。それもあって科学書というにはポエミー。
リズム感やら語り口で読み物として割と好きな人は好きな感じする。論の厳密さを求める人は嫌な顔するかもしれん。僕は好き。

数十万で買える高精度な時計を使えば、高所の方が時間が速く流れることを誰でも確認できる。
時間は昔考えられていたように固定でもなく一定時間で流れるわけでもない。

クラウジウスの提唱した「エントロピー
これが絡むときだけ、行ってしまえば熱が絡むときだけ、時間が現れる。
それ以外のニュートン方程式アインシュタイン方程式も時間の要素はない(ほんまか?)

熱力学第二法則: ΔS ≧ 0
これは本書で出てくる唯一の数式。
;; もっと複雑に色々条件があったような気がするが

熱やエントロピーという概念は、自然を近似的、統計的に見たときに現れる。
我々の記述よりもずっとミクロな世界では未来と過去が区別されない。後で詳しく述べる

電磁気学の方程式で、時間tのほかにt'をまた時間と解釈しなければ成り立たない。
周知の事実だったが、誰も意味をわかってなかった。アインシュタインが理解した。tはじっとしている視点の時間で、t'は動いている視点の時間だった。

天体望遠鏡で見える星の光は過去の姿。立ち止まってその事実を噛み締めよ、と。
何光年も離れていれば明らかに「観測できるものは現在ではない」が、程度の問題であって、目の前に見えるものは厳密には現在よりもちょっと過去。つまり、いまここにある現在に対応する特別な瞬間は存在しない

宇宙全体で定義できる「今」は存在しない。何らかの形態が「今」存在して時間の経過で変化する、という見方自体が破綻している。

速度によって時間が遅れることを発見した10年後、アインシュタインは、質量によって時間が遅れることを発見した

アリストテレス「時間は変化を計測した数に過ぎない」
ニュートン「何も変化しなくても経過する時間が存在する」

正反対の見方。いまのところニュートンが優勢のように見える。
物体についても二人は意見が異なる

アリストテレス「空間は物体の順序でしかない」
ニュートン「物体は空間の中に置かれている。物体と物体の間には空っぽの空間がある」

アインシュタインは、アリストテレスの時間とニュートンの時間を統合した。

時間の最小単位。
時間は量子化されている。粒である。連続ではない。
プランク時間と呼ばれる最小の時間単位。10^-44秒

時間は方向づけられていない。過去と未来の違いは、この世界の基本方程式のなかには存在しない。それは、わたしたちが事物の詳細をはしょったときに偶然生じる性質でしかない (p.92)

世界の基本方程式に時間が存在しないとしても、世界には「変化」がある。
事物は存在しない。
事物は「起きる」。出来事である。

この世界の時間の構造は一直線につながっているわけではない。もっと複雑。

「現実」とは何か。何が「存在」しているのか。「この問いは間違っている」というのがその答えだ (p.110)

現実という言葉も存在という言葉も曖昧で、意味がたくさんある。自然に関する問いとしては使えない。
人間の使う言語は過去/現在/未来の活用がある。そのような言葉は世界の時間を記述するには向いてない

時間変数をまったく使わずに初めて書かれた量子重力の方程式: ホイーラー=ドウィット方程式
著者が研究しているのはこれを発展させた「ループ量子重力理論の方程式」
これは、物質やら素粒子、光子、電子、重力場などなどを同じレベルで記述する。が、万物の統一理論というわけではない。これまでの世界の理解を一貫性のある形で記述することを目指している。

標準的な論理では
時間 → エネルギー → マクロな状態
の方向で考える。だが逆に見ることもできる。
マクロな状態 → エネルギー → 時間
マクロな状態を観察することで世界のぼやけた像を得て、それをエネルギーを保存するまぜあわせと解釈する。すると、そこに時間と呼べる性質が見えてくる

マクロな状態によってある特定の変数が選ばれ、それが時間のいくつかの性質を備えているのである (p.135)

マクロな状態によって定められた時間を「熱時間」と呼ぶ。我々が通常「時間」と呼ぶものに近い性質を持っているが、イコールではない。
熱時間には方向がなくて、過去と未来の区別がないから。

過去と未来の違いは、すべて「かつてこの世界のエントロピーが低かった」という事実から来ている
なぜか?
エントロピーは視点による。B にとって A のエントロピーとは、A と B の間の物理的な相互作用では区別されない A の状態の数。
わたしたちの目にはこの世界の始まった頃のエントロピーは低かったように見えるが、それは世界の正確な状態を反映したものなのか?違う。世界を記述する際のマクロな変数が少なかったのでエントロピーが低かった。わたしたちはさまざまな宇宙の性質の中の極めて特集な部分集合を識別するようにできていて、そのせいで時間が方向づけられている。

;; 人間原理?いや物理的な系のレイヤーで「わたしたち」と言ってるのか。その後で以下のような説明があった:

ここで「わたしたち」といっているのは、自分たちが広く接することができ、宇宙を記述する際に用いている物理変数の集まりのことである (p.148)

世界を「外側から」観測することはできない

我々は時間と空間の中で構成された有限の過程であり出来事である
アイデンティティについて三点:
1. わたしたち一人一人が世界に対する「一つの視点」と同一視される
2. 自己とは、まわりの人々と関わるために開発してきたヒトという概念モデルを自分自身に投影したもの
3. 記憶

『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠

2022-05-04 開始
2022-05-08 読了

ロシアの世界観では、民主化運動やらを「西側からの攻撃」と捉える。クリミア併合なんかもロシア視点では、もともと西側による旧ソ連国家への影響力行使すなわち攻撃があったのであり、ロシアがやったことは「攻撃に対する自衛」である

経済力や軍事力ではアメリカと比べてもちろんロシアは劣勢
だが劣勢だからといってやりようがないわけではない、ので、ロシアが武力を行使するのを控える理由にはならない
そこでよく議論に登るのがハイブリット戦争。武力だけでなく情報やらを
交えて戦う
そもそも21世紀には(従来の意味での)戦争はない、といった人もいる。核兵器のぶん殴り合いによって、全面武力衝突したあと、本来戦争によって成し遂げたかった戦略目的が達成できずに終わる。ので、昔の意味での戦争はない。

2004年バルト三国NATO加盟。
2001年のアメリ同時多発テロをうけて、戦力は巨大なものをぶつけ合うよりも、テロのような小さなイベントに迅速に対応する能力が重視された。バルト三国NATO加盟も、不安定な社会主義国を西欧の文脈に置き安定させたい意思がメイン。
ロシアもそれをわかってはいた。NATOとの全面戦争が起こるリスクは少ない、と分析していた
2004年のバルト三国NATO加盟時点は、ロシアはそれに反発する力を持たなかったが、原油価格高騰で力を回復して、2008年にはグルジアジョージア)と戦争。NATO加盟論が持ち上がっていたから。さらに2014年にウクライナで政変が起きると、クリミア半島とドンバス地方に軍事介入


ロシアから見れば、NATO非加盟国をどう非加盟のまま維持するか、というのが極めて重要
NATOに加盟するさいは国連の承認をスルーできる(国連なら常任理事国なのでロシアが拒否権持ってる)。これはロシアから見れば西側諸国が不正に勢力を拡大している
グルジア戦争(2008年)以来、旧ソ連NATOに加盟してない六国(ウクライナアゼルバイジャンアルメニアベラルーシグルジアモルドバ)がNATOに接近したら武力でそれを妨げる、というのがロシアの基本方針
ハイブリット戦争。
2014年クリミア半島併合はほぼ無血で実現
一方のドンバス地域はひどい戦い

クラウゼヴィッツの戦争の定義は「決闘の延長」で、暴力で白黒つける。
だがハイブリット戦争の時代はそれが変わっている


政治的・戦略的な目的を達成するために非軍事的な手段のはたす役割が増えてる
そして、それらが進んで、ある段階になったら平和維持活動とか危機管理の名目で公然と軍事力が使用される


2013年、ロシアの雑誌に、クリミア併合の一年前にまるで予言したかのような記事があり「ゲラシモフ・ドクトリン」としてバズった
主観的にはロシアは西側からの「非線形戦争」に晒されているのも事実。
ある程度は自国の行動を正当化するレトリックではあるが、↑


非線形戦争というのは、戦場に立ち入って戦う「接触戦争」との比較。
あーちがうまちがい
接触戦争の反対はふつーに非接触戦争だわ

非線形戦争とは、心理戦をメインにする戦争のこと。反対に位置する「線形戦争」は、ひとつながりの戦線を挟んで戦う形態を指したもの。非線形はそうではなく、あらゆる場所で人々の心理をめぐる戦いが起こるのだ、と
さらに、非線形戦争に平時と戦時の区別はない
名付け親はエフげニー・メッスネルで、情報による戦争という考えを推し進めた人

非が戦争は、ロシアの若者に、ロシアの政治は正しく、だから西側から攻撃を受けているのだと信じさせることを含む
SNS の規制や実名化、見せしめ逮捕などを行ってきた

ロシア、2016年のアメリカ大統領選挙に介入
陰謀論でなくこれもう明るみに出てるぽいな

「抑止」と翻訳されるロシア語のほげほげは、実際には抑止と聞いて思い浮かべる「思いとどまらせる」というよりも「抑え込み」に近い。これは実力行使を含む。威嚇して争いを防止するだけでなく、実際に小突き回して恐怖を抱かせることを含む
で、その「抑止」を西側からの非線形戦争への反撃として行うのだ、という世界観になる
政策文書で、戦略的抑止、として定式化されてる

大統領選挙への介入は「ロシアゲート」事件として知られる

西側自身は、西洋化や民主化の動きをロシアに対する「攻撃」であるとは認識してないので、突然ロシアがなんかしてきたらそれは反撃じゃなくてロシアからの攻撃と映る。この非対称性。

2016年、治安組織が大統領直轄になった
これらの直属舞台は、ロシア版「カラー革命」が起きたときプーチンの身を守るためのもの
民主化革命が民衆により起こされるとは考えていない。それを操る「敵」がいる、という思考。

権威主義的政治を認める代わりに社会の安定やらいい生活水準を約束する、的な前提で成り立ってたのが、コロナでゆらいだ

ゲラシモフ・ドクトリンやら非線形戦争やらが出てきても、著者の考えでは、戦争の主役は依然として軍事力である

実際ゲラシモフ演説も全文を翻訳したり前後の発言と合わせてみても、別に情報戦争が主軸になるみたいなニュアンスはない

さらに著者の考えでは、ゲラシモフ演説は「ドクトリン(教義)」ってほどではない。むしろ、ロシア軍にそのへんの視点がかけていることを嘆いてハッパをかけている

あーなるほど
ロシアの視点では、非線形戦争は別にロシアの生み出したものではなく、西側が先に仕掛けているものなのだ。だから、新しい戦法で相手を出し抜くぜ、というつもりはない。むしろ、この点で西側に劣ってるからどげんかせんといかん、というニュアンス

ロシアがクリミア急襲で見せたのはハイブリット要素が薄い、大半は軍事力

ロシアはシリア紛争にも介入。投入した戦力は限定的で、西側は、そんな兵力でできることはたかが知れている、と予測した。だが、外れた。
ロシア介入以降、崩壊寸前だったアサド政権は立ち直った。介入から一年で逆転勝利
ロシアのシリア介入が成功した一員は「限定行動戦略」にある
背景にあるのは、地政学国民感情的に、ロシアから外部の国に派兵するという戦略が取りにくい
そこで限定行動戦略。つまり、ロシアからは空軍力や偵察・指揮といった、大国ならではの能力だけを提供し、現地の勢力をマージする。これによって、遠く離れた地域での大規模な軍事作戦が可能になる
ソ連時代からの伝統を持つスペツナズ。ロシア語で特別任務を意味する。少数精鋭ではなく、中の上程度の能力を持つ兵士を多数。敵の中に侵入して偵察や破壊工作を行う部隊の総称。もともとNATO国家に潜入して米軍の戦術核兵器を破壊する目的で設立された

民間軍事組織(PMC)である「ワグネル」は公然の秘密。公式に聞かれると存在を認識してないと答える。が、実際はロシアのために戦う兵士たち。
ロシアがクリミアやドンバスで実現したかったのは、ウクライナを「紛争国家」にすること。だから戦いを終わらせるつもりはない。実際執筆時点(2021年5月発行の本です)で、まだウクライナは紛争国家でありつづけている
これによって、ウクライナNATOEUに組み込まれなくなる

ドローンはゲームチェンジャーか?いやそうでもない、電波妨害など、ドローン対策技術も進んでる
発見できればドローンはすぐ撃墜できるし。無敵ではない

毎年夏から秋にかけて軍事訓練やっており、そこからロシアの考えが読み取れる
ただ、訓練からは「想定している将来の戦闘」ではなく「獲得しようとしている能力」に着目したほうがいい。大規模演習だけでなく、前後の小規模のものも含め。

そこから読み取った傾向によると、2005?から2010年あたりまでは、ロシアはあくまで大規模戦闘に備えていた。NATO との全面戦争とか、チェチェンのテロ組織…といいつつめちゃくちゃ大規模なテロ組織を相手とした訓練を想定
そのあと変化が訪れて、段々小規模な紛争に複数同時に対処できる能力を獲得しようとする訓練になり始めた
2010年代前半は小規模なものによっていたが、突然、2014年にハチャメチャな大規模演習が行われる。まるで変化が巻き戻ったかのような。
どうもこれは想定されるシナリオを読む限り、北方領土問題で日本と軍事紛争、それに米軍が介入してきた、という想定だったらしい。
この背景は、小規模紛争に対応できるような改革を推し進めていた国防そうが失脚したこと。そして、直前にウクライナ介入をやってた(2014年です)ので西側とのぶつかりが増え、牽制の意味もあったのではと。
もひとつ、この時期に、表面的な相手はゲリラだけど背後には外国がいる、というシナリオの演習もやってる

執筆時点で最新の演習では、ベラルーシパキスタン、イラン軍も参加した演習

公式発表は参加人数が水増しされてた説もある

2018年9月、プーチンの「前提条件なしに年内に平和条約を結ぼう」という爆弾提案
ここで前提条件というのは、1993年の「東京宣言」である。つまり、平和条約締結前に、四島の帰属問題を解決する、という宣言。
そんな、平和に向けて希望がちらつかされた微妙な時期に、北方領土で2018年の大規模演習(の一部)が行われた
日本政府は知らないふりをした。著者がその場で衛星画像を見せたにもかかわらず、防衛省職員は「北方領土での演習はなかった」と譲らなかった

中国とロシアの関心のある地域は被ってない。
2国の関係は、相互防衛義務のない、協商(アンタンテ)として発展すると見られる
ロシアの演習には中国も参加してる

2020年にロシア憲法?が改正
2024年のプーチン任期後も、また選挙に出たり、あるいは院政みたいに影響力を行使できるというルールが追加された
著者は、2010年代のような資源による経済発展に似た大きな変化がなければ、いまのロシア軍事戦略は2030年頃まで続くと見ている

『話し手の意味の心理性と公共性』三木那由他

2021-10-19 開始
2021-10-20 読了

面白かった。
書き込みつつ読んだのでその後何度か再読して読書メモを抽出

本書は三部構成
1. 意図基盤意味論の概要
2. 意図基盤意味論は問題をはらんでいる
3. 共同性基盤意味論という新たな立場を提唱する

「話し手の意味」に関する研究はグライスという人がはじめたもの

これまではその話し手の意味研究は「意図」をベースにしていた。
意図基盤意味論。つまり、話し手が何を意図しているか、という視点。
だが実際は、意味と意図はそれほど密接に関わっていない。
意図基盤意味論はは「透明性」が必要だったりして、意図の無限後退問題というものを引き起こす。
意図の無限後退は、話し手の意味の「公共性」に関わってくる

意図の無限後退問題とは、話し手の意図という概念によって話しての意味を分析する意図基盤意味論の立場において、その立場を維持しつついかにして話し手の意味の透明性を、ひいては話し手の意味の公共性を確保するかという問題なのだ (p.19)

著者は「公共性」をベースにした論を展開...公共性であってる?

  • 話し手の心理性: 話し手が p と言ったら、話し手が p と信じているらしい、ということを話し手と聞き手が合意して、それをベースにコミュニケーションを発生させる。つまり聞き手は話し手に p という信念を帰属することができる。その p を過去の行動の説明や未来の行動の予測に利用できる。話し手が語る p に、聞き手は「同意」しなくていい。あくまで、ああ、話し手は p と思っているんだな、と了解することのみ。
  • 話し手の公共性: 話したことをおおやけに引き受けること。雨が振りそうだと言ったら、雨が振りそうだと考えていることを自ら引き受ける。

でもそのコミュニケーションが何を意味しているかでどんどん後退していかない?
...と思ったら、核となる「協力を示す共通認識」が存在するという前提を立てているっってことぽい?話し手の意味の「公共性」によって無限後退をブロックしている?

ここまで序章

意図基盤意味論の概要と限界

話し手の意味の分析は「帰結問題」「接続問題」を解決しなければならない

  • 帰結問題。
    • 実現状況が特定されれば、話し手が何のために発話しているかがわかる。実現状況を特定する課題を「帰結問題」と呼ぶ
  • 接続問題。
    • 話し手の発話と実現状況がどう結びついているのか特定すること。

意図基盤意味論は「意図という概念によって、接続問題に答えを与える立場の総称」である
;; あー 帰結/接続 の話にはそもそも意図がないのか? いや帰結に絡んでるな. わからん. 外部からの意図 injection というか独立して扱ってることが特性?


グライスは、最終的に (晩年) 意図の無限後退問題に対して譲歩、ある種の敗北宣言をしている。
姑息な意図 = 言ってることと本心が違うようなシチュエーション。か?
姑息な意図の禁止、という観点からグライスは意図の無限後退問題を解決しようとしたが、うまくいかず。

S が x を発話することで何かを意味しようというのならば、彼が何かを意味するということのために必要となる意図のすべてが公然のものに (out in the open) なっていなければならない (p.77, シファーのコメント)

著者は、意図の無限後退問題は、意図基盤意味論というアプローチ自体の誤りを示しているのではないかと言う。
意図の無限後退問題は「帰結問題」に関わってるのか、それとも「接続問題」に関わってるのか?

意図基盤意味論の論者は、
1. 話し手の意味の透明性
2. 話し手の意味の表象主義
を前提としている。だが、、、

話し手の意味の透明性と表象主義をともに採用すると、分析には循環のゆえに内容が決定不可能となる命題的態度というものが含まれることになり、それが意図の無限後退問題の原因となる (p.144)

と書かれている。つまり採用した前提の時点で、すでに意図の無限後退問題の種が埋め込まれていた。


著者の主張: 共同性基盤意味論

私たちが話し手の意味と話し手の意図の関係として認めるべきなのは、「何かを意味するというのは、何らかの意図を伴ってなされる意図的な行為である」という最小限のことに留まる (p.178)

なるほど。これまで意図基盤意味論が積み重ねられてきた、その土台を一旦解体。
あくまで前提にできるのは、プレーンというかごくごく最低限のつながりに過ぎない、というところまで分解する。
これを読んで字の如く「話し手の意味に関する最小意図説」と呼称(この先もこの呼び名が頻出するかどうかはわからん)

すると問題になるのは、その上に代わりにどんな土台を乗せるのか、というところ。
もっと分野用語を使って言えば

  • 「帰結問題にいかに答えるか」
  • 「話し手が何かを意味し、聞き手がそれを理解するときに何が起きるか」

を捉え直すのが新規性のある主張


導入されるのは「公共性」という視点
テイラー(テイラー展開労働生産性もコンテナも関係ない)は以下のように語る

人間のコミュニケーションは単に情報を伝達するだけではないのだ。(中略)何らかの事柄が我らのことであるということの承認を、それはもたらす。 (p.190)

さらにもっとふわっとしたことも言ってるな。「我らのこと」であるという理解は、単なる理解以上のもの。公的な空間。私たちを人まとまりとするもの。ふむ

共同性基盤意味論。
「話し手と聞き手が p という集合的信念を持つ」のではない。
;; まぁ他人から意見聞かされたら強制的にその意見が自分の信念になる世界とか怖すぎるしな
そうではなく、
「話し手が p と信じている、という、集合的信念を話し手と聞き手が持つ」
という形で実現状況が特徴づけられる。共同的にコミットする。これが本書で提唱する帰結問題の解答。

「共同的コミットメントに参加する」ではなくて
「共同的コミットメントに参加する準備を表明する」みたいな wrap された表現をしてるのがよくわからない(参加と参加準備表明の差異が理解できてない)。

聞き手の理解は単なる「内的な情報処理」ではない。
聞き手もアイコンタクトとか頷き、返答などで、何らかの反応を表明する。

;; Paxos? と思ったけど違うな, そんな明確な結論を出すタイプの合意じゃないか (& 解決しようとしている課題が違う気がする). 単に複数視点の ack という意味で blockchain の consensus algorithm っぽさ? そこまで厳密に足並みをそろえてもないか。理解が歪むだけだしあまり変な連想するのはやめとこう

でもこの共同的なコミット、それを可能とする前提が先に存在してないとダメじゃない? A が話したことを聞いて B が頷いたとしても、実は B の文化では「頷くこと = お前が言ってることは何もわからないし許さない、今すぐ殺す」という意味を持ってるかも知れない。これはこれで共同コミットが無限後退しない?
と思ったけど、すぐその話が出てきた:

私たちは再びある種の循環に直面することになるように見える。共同的コミットメントを形成するためにそれに参加する準備を表明するには、そのための行為がそうした表明となるということに関してすでに共同的コミットメントが形成されていなければならないのだ (p.215)

この問題提起に対して、次のような解答がなされている。

...それは循環ではなく、共同的コミットメントの形成のためにはそれより基礎的な別の共同的コミットメントがすでになければならないという後退を示しているにすぎない。そして問題は、それが無限後退か否かである (p.215)

なるほどね、たしかに後退してるけど、それが無限に後退するかそれとも有限個の後退で止まるかどうか、という問題点に帰着させてんのか
で、実際無限なの?
=> 著者の答えは「人間にはいくつかの基礎的/本能的な "協力シグナル" が存在するのではないか」という仮説
協力シグナル候補として視線のやり取りをあげてる。

;; その仮説、どうやって証明すればいいんかな。レヴィ・ストロースの野生の思考的なところまで降りるのか、とすればフィールドワークで探すのか、とか。ミラーニューロン的な生物としての器質的なところに紐付けられるとおもろそうだけど
;; チョムスキーの生得説 vs タブラ・ラサ論みたいな言語文法バトルに吸い込まれそう(協力シグナルは狭義の「言葉」とは別だと思うけど

意図基盤意味論では、話し手と聞き手の背後にある共同体を全スルーして個対個の話になっちゃってた。
だが実際は何かを共有しない限りコミュニケーションは成り立たない
何も共有していない存在(異星人とか)とはコミュニケーションができないことになる... が、新たに何らかの基礎的な共同的コミットメントを形成しさえすれば、それに基づいてコミュニケーションが可能になるぜという希望のある話でもある

『カッコウはコンピュータに卵を産む』

20191122 開始
20191123 読了


フィクションではない。
1986 年、ローレンス・バークレー研究所のシステム管理者だった著者は、研究所のシステムへの侵入に気がつき、それを追いかけ始める。というストーリー

75 セントだけコンピュータ利用代金が合わない、ということがきっかけ。
ゲストとして接続してきていた、特定の名前のゆーざが怪しいと踏む。プログラムを書いて待ち受ける。一瞬だけ port 23 に接続しにくる。研究所のネットワークで記録を見ると 1200 ボー・レートで接続してきてる。外部から電話のモデムだ。内部ではない。
UNIX のデーモンいじって、接続してきたユーザの操作を記録するか?と検討するが却下。ハッカーが気付くかもしれない。
なので旧式のテレタイプをつないで、アナログ信号をデジタルに変換するところ?でやりとりを監視

ハッカーが super user をゲットした手口
GNU Emacs はファイルを同じマシン上の他のユーザに転送する機能があるが、これは誰に対しても送ることができる。研究所のマシンには Emacs がインストールされていた。
ハッカーEmacs 機能を使って、atrun と呼ばれる 5 min ごとの定期実行プログラムを同名の、しかし内容は root をゲットするスクリプトに差し替えた。

ハッカーは自身の侵入の痕跡を消したり、10 分ごとにログインしているユーザを確かめたりと慎重に振る舞った

その後もう少し効率のいい監視の仕組みを作って待つこと一週間。きた。

著者は習慣で ps -aux をつかうがハッカーは ps -eafg をつかっていた

電話かな?交換手に連絡してどこから接続してきているのかを確認する。

ps オプションの癖から、ハッカーは旧世代 unix 信者だと見抜く

ハッカーはパスワードファイルを読んでいたが、これは DES でハッシュ化されている。それを見てどうするつもりだというのか

著者は天文学者。黙々とデータを集めて、そこからなにが起こっているかを推測することに慣れている。

研究所を踏み台に、インターネットの一部、milnet (ミルネット) に接続していく様子を見る。国防総省の管轄。そちらに電話したところ存在を認識していた
研究目的のアープネット、軍のミルネット。前者がのちの、つーかいまのインターネットの基礎

電話回線はもれなく監視していながら、ネットワークの接続には警戒をおこたっためである

ハッカーはログインした後、他のユーザに対して偽ログインプログラムを見せた。そこでパスワードを入力させて、盗む。
だがハッカーバークレー UNIX 想定でそのトロイの木馬プログラムを組んでいた。研究所は AT&T/UNIX だったので正常に動かずこと無きを得る

FBI は動かなかったが軍は協力してくれそう。いやそうでもない興味を示すだけ

プリンタが印字する速度で距離が図れる。電話回線だからな

ハッカーが使っている複数の名前には共通点があった。ドイツ語でなんとかカモメの名前。他の言語で関わる単語を別名義にしている。とか

利用者リストから、新聞に載ったハッカーの名前を調べる。ここから別人であるとわかる。

電話番号のヒントから組み合わせで電話会社に聞いてみる。ソーシャルハックしてるんだよなぁ
でその先が CIA の本部の所在地だったと

日誌をこまめに書いている。だからこの物語というかノンフィクションが書けたんだろうなぁ
これが後々、CIA や FBI に協力してもらうときにも役立った。解釈を交えず事実だけを伝えることができる

スタンフォードの方でハッカーは侵入した先のコンピュータで宿題をやろうとした。そこで名前を入れてしまう。クヌート・シアーズ。どうやら著者が追ってるハッカーとは別人らしい

国防企業マイターから接続されている。教えてくれなかったのでこちらからハッキングというかアクセスをかけた。反応は早いのにネットワークが遅い。トロイの木馬が仕込まれていてそれでパスワード抜かれたとみる。
じゃあこの中に犯人はいない。踏み台だ、と。

問題のハッカーバークレーに侵入する前からさまざまなコンピュータに侵入していた。国防系やらに 1 分だけ接続したり

ハッカーからの侵入は常に昼間。深夜ではない。

国際電話会社 ITT から接続している
;; 最近本読んだところの会社だ。
さらに追うとどうやらヨーロッパ、西ドイツから接続しているらしいとわかる。アメリカの昼はドイツの夜。電話料金の安い時間を狙っている

国外が関わってるとなって周りが協力してくれるようになる

telnet コマンドだけ叩く行に「ミルネットに接続」と説明してるな

このハッカーが root 取った後よくやるのが、休眠アカウント、最近使われていないアカウントのパスワードを書き換えて乗っ取ること
二時間引き止めないとドイツ側で逆探知ができない。
だれもまともに協力してくれないので罠を貼ることにした。軍事機密っぽい文書をでっち上げて、新しいコンピュータの中に仕込んで接続する。機密ぽい文章を全部転送するのに二時間以上かかる計算
いや、新しいコンピュータはつないでないのかな。

ハッカー根気強くあてずっぽうパスワードで軍事関係コンピュータに侵入を試みる。根気大事

著者も根気が半端ではないな

パスワードは hash 化されている。hash プログラムは公開されている
辞書にある単語を片っ端から hash 化して、盗んだ /etc/password にきさいされている hash 済パスワードと突き合わせる。辞書に載ってる単語をパスワードに使ってれば、わかる

ドイツ側では現行犯逮捕しないといけない、さらに複数人を同時に抑えるとかでなかなか逮捕に至らず

罠として仕掛けておいた資料請求以来に問い合わせがきた。送り先はピッツバーグ

グラシン 封筒?要はトレーシングペーパーらしい

最終的にはドイツのハノーヴァーで逮捕された?のかな?
著者には最後のオチはすべて明かされず

事件は報じられ、新聞社はドイツの犯人への電話インタビューまでやってた。捕まって裁判中。名前はマークス・ヘス 25 歳。昼間はソフトウェア企業で働くサラリーマンで、興味本位でやったという。背景など詳しい情報は話さなかった
ヘスと組んでいたハグバードという男はKGB に情報を売っていた。
ピッツバーグからの情報請求は、KGB がもっと情報を得ようとして間接的に依頼したものだった。一応実在の人物だった。
最終的にハグバードは自殺。ヘスは今でもハノーヴァーで暮らしている