(再読 2018)『メンタル・タフネス』
もう買ってから10年になるか.良い本なので正月を機にざざっと再読.物理本時代に引いた線をなぞる形で
テニスコーチで松岡修造の師匠でもある ジム・レーヤー 著
タフネスに欠かせない 4 つのレスポンス:
- emotional flexibility
- 競争状態や結果に関わらず幅広い (ユーモア, 喜び, 楽しみ etc) ポジティブな感情を奮い起こすことが出来る
- emotional responsiveness
- 感情面でその場の状況を把握している. 敏感のその場の状況を感じ取り目的遂行状態に入れる
- emotional strength
- プレッシャー下でも情熱的・強靭
- emotional resiliency
- 失敗など感情的なダメージから素早く立ち直る
タフネスの本質は,理想的な心理状態 (IPS: Ideal Performance State) に入ること
IPS は最高の力を発揮するために最も効率的で確実な精神,感情,肉体の状態を指す.IPS にあれば人は能力を最大限に活用する事ができる
IPS をコントロールするとは,いつでも理想的な心理状態に入れる能力を言う
著者は,ストレスがいかに人を弱くしたり強くしたりするかを研究.これはスポーツのみならず日常生活にも応用できる
本書を支える信念:
- タフネスは感情的かつ肉体的なものである
- タフネスはストレス下での flexibility, responsiveness, strength, and resiliency である
- スポーツと同じく感情が人生を左右する
- タフネストレーニングによって仕事・私生活での IPS をコントロールできるようになる
感情的にタフになる過程は肉体的にタフになる過程と同じ
ストレスを防御するのではなく,ストレスに耐え,そこから迅速に回復すること
健康は波である.線形 (ストレスレベルに変化のない日常. ストレスが高いままか低いままが続く) ではない
バランスの取れたストレス・回復のサイクルを繰り返すことが重要
痛みは肉体/感情のストップサインで,不快感は注意を払うべき警告
チャレンジは大きなストレスに耐えて通常の限界を超える機会
タフになるプロセス・変化は現実に測定可能である.
肉体的にタフになるのは筋力トレーニングとかで肉体変化が起こることから明らかだが,メンタルはどう測ればよいのか?
=> 辺縁系が感情の中心.神経伝達物質を測定すれば良い (ご家庭では無理だけど)
ストレスのサイクルが一定の回復期間をはさんで繰り返すこと.さらにその幅が徐々に増加する.
オーバートレーニング・アンダートレーニングはどちらもいけない.弱くなってゆく.
オーバートレーニングによって,ダメージから防御するために活力・モチベーションが低下する.
アンダートレーニングによっても,ストレス対処能力が極端に落ち込み,エネルギー消費能力自体が低下し,何もできなくなってゆく
要はストレスが多すぎても少なすぎてもやる気が無くなる.「怠惰」はストレスと回復のバランスが取れていないサインであって,性格や人格の問題ではない.
現代人によくあるパターンは「肉体的にアンダートレーニングで感情的にオーバートレーニングである」という状態.他にも組み合わせパターンはあるんだけど,一番よくあるこのパターンに絞って解説を行う
仕事がめっちゃ大変で私生活も問題を抱え,でも朝から晩まで机に座っているばかり.. というケースがこれに該当する
感情的に弱くならない,つまり高い量のストレスに耐えられる人間で居るためには,同じ量を経験し続けなければならない.
維持ストレス範囲の上方部分にあるときは,IPS になれる.つまり適度なストレスがあったほうが強くなる
;; 実務上のポイントはいかに感情ストレスのサイクルをつくり出すか,というところにあるだろうか
ポイント: 精神ストレスと感情ストレスを区別すること
精神ストレス ... 知覚・思考・集中などで感じ取った情報は考え方を "非感情的に" 処理する際のストレス
感情ストレス ... 感情を表現する際に消費される.一般に,精神ストレスよりもずっと高い
ストレスと回復のバランスを測る一番の指標は「楽しさ」である
研究から得られた KAROSHI (過労死) につながる現象は:
- 深夜労働
- 休日・休息なしでの労働,または長時間労働
- 休憩のない,プレッシャーの大きな仕事
- きわめて厳しい肉体労働と,継続的に緊張状態を強いられる仕事
回復 (recovery) ... いつ,どうやって回復するかを知ることが,おそらく人生においてもっとも重要なスキル
従来のストレスマネジメントは「いかにストレスを軽減するか」「避けるか」を考えてきたが,もっと重要なのは回復のやり方である
短い時間でものすごく集中して仕事して,ふと席を立ってリフレッシュ,再び席に着く.というスタイルが効果が高い
90-120 分の集中 (ストレス),15-20 分の回復というサイクルが身体の自然な必要性に最も合致している
睡眠について: 通常のストレス状態での標準的な睡眠時間は 8 時間
8 時間の睡眠という回復期間中,ヒトは 4-6 回,90-120 分のサイクルを繰り返す.
目覚めたときに睡眠に満足を感じるのは,うまく深い睡眠サイクルを経由できた時
22-24 時の間に就寝して 6-8 時の間に起きるというサイクルが理想.睡眠の量と質を毎日記録するとよい
仮眠を取りたいと思うのは生物として自然
うまく眠れていないと感じるなら,カフェインを絶つ.三日あれば身体からカフェインが取り除かれる
アルコールは中枢神経系の機能を低下させ,レム睡眠を抑圧するため良い眠りが出来ない
運動は午後遅い時間が理想
食事について
スケジュールを規則正しく一貫性のあるものにする
1500 kcal / day まで, 水分 1.2 L 以上
可能であれば 2,3 時間ごとに飲み食いするほうがよい.頻繁に少しずつ摂取することで血糖値が安定する
生き延びるために
- 肉体的・感情的タフネスを増強するためのトレーニングを毎日行う
- 回復のノウハウを体得する
- ストレスが高いときは身体のシグナルのみに従って回復していてはいけない
- 自身で必要性を感じようと感じまいと,規則正しい生活に従うこと
- 人生の危機に直面したときはポジティブな意味付けをする
- 過度のストレスによる危険信号に耳を傾ける
- 大きな危機に直面したら,運動したり人と話をして気分転換を試みる
- 身体の基本的な生理的欲求を無視しない
- 回復力を高めるために,アルコール・ドラッグの使用は避ける
- つらい時期には楽しいことで気分転換する
ポイントは,危機の間,いかにシステマティックに回復のチャンスを作るかというところ.
そして危機にポジティブな意味付けをして糧とし,危機によってタフネスレベルを上げる.
大きな危機に直面しても,日々の生活で正確なスケジュールを守っていると,人生をコントロールしているという感覚が得られる
最初は 30 日間の集中トレーニングを設けるのがよい.規則正しく生きてみる.アルコールは 1 日 90ml 以下にする
タフネスは後天的に獲得可能な生化学反応である.ポジティブな感情の活性化と結びつく,特別なパターンの生理的覚醒.
カテコールアミンの種類
カテコールアミンが慢性的に高い状態を維持する (つまり慢性的なストレス状態) と,ホルモンの上昇を妨げる
生化学的回復の重要性.カテコールアミンが低レベルになる時間帯をつくる
ネガティブな感情状態には理由があるし,それに対して我々が自問できるのは:
- リカバリーは必要性は何か?
- なぜネガティブな状態になっているのか,その原因
- 今,私はそれについて何が出来るか?
- 直接的・建設的にリカバリのニーズを満たせるならそうする
- 私はいまネガティブな感情と痛みを経験するのにふさわしい時・場所にいるのか?
- いま必要性を満たせそうか?仕事中や試合中ならそれは適切なタイミングではない.故意に先送りしよう
- 先送りするなら,後ほど必ずニーズを満たすと自身に約束する.「こうやって満たすよ」とビジュアルを鮮やかに想像する
- 中枢神経系は,鮮やかに想像したことと実際に起ったことの区別が出来ない
- この痛みは危機や打撃をもたらす過酷な時期に起因するものか?
- であれば,ネガティブな感情は何かの役に立っているか?
- 過酷な時期を,感情的にタフになるためのトレーニングに転化できそうか?
- このネガティブな気持ちは,回復の必要性のシグナルか?
- 睡眠・食事・安心・注目,何を必要としているか?
- 必要性が特定できれば,可能な限りそれらを直接的に満たしてやる
感情はメッセンジャーであり,コントローラーではない.感情から得られた情報を元にして「自分が」行動をコントロールする
メッセージを受け取ったら,いま出来るならニーズを満たし,今は無理なら「私はメッセージを受け取った」と自分に約束して,ポジティブな感情に戻る
どんな方向であれ,自分の「思考」を望む方向に向けることで,体内の化学物質をその方向に動かすことが出来る.これはスキルであり,やればやるほどうまくなる
週ごとの優先目標を二つ設定するとよい
目標は,その週だけで完全に完了できなくても良いし,具体的じゃなくてもよさそう.本書に上げられている目標例は:
- 脂肪を減らす
- 遅くに食事を取らない
- 食品ラベルをチェックする
- 睡眠を安定させる
- 能動的休息を増やす
- ネガティブ感情をより深く理解する
- よりタフになる
- ストレス量を増やす
- 自信があるように見せる
- {精神的,感情的,肉体的}な{flexibility, responsiveness, strength, resiliency} を向上させる
感情の意味を理解し,特別なときに感情の流れをコントロールすることを身につけるのは,人生の重大なスキルである.... 感情は生理的および心理的機能のあらゆる面に深く影響を与えることができる生化学現象である (p.274)
高いストレス下にあるときは,状況を脅威ではなくチャレンジと知覚するようにする.人生の一日一日はトレーニングチャンスである