『WHO YOU ARE』ベン・ホロウィッツ

2022-06-10 開始
2022-06-12 読了

TEAMING とかエドモンソンの「解毒薬」として教えてもらったもの

著者のベン・ホロウィッツは起業家。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%84
前著『HARD THINGS』の読書メモ: https://memerelics.hateblo.jp/entry/20191103/1572706800

ラウドクラウド(のちにオプスウェア)を経営、ヒューレット・パッカードに買収される
文化についての本、といえるか

著者が逆張り思考で調べたことの一つ、奴隷制度。
奴隷制度はどう考えてもひどすぎる、だが、かつて広く行われていた。だから現代の視点に逆張りしてみよう、奴隷制度を廃止するなんてとんでもない、という視点に立ったら何が見えるか?という思考実験
...という導入だったが歴史を語る感じの章だな。

ルーベルチュールという人物はハイチ独立の祖。
ハイチはフランスが奴隷を大量に送り込み、サトウキビやらでとっても収益性が高い島。当時はハイチという名前ではなかったが。
ルーベルチュールはフランス革命の流れを受けて奴隷反乱の指揮。
ふつう白人男性がやっていた馬の世話を任せられており、自由時間に本を読んで知識を蓄えた。教養があった。
反乱軍を率いて、スペインに付いたりフランスについたりして、英国軍を打ち破ったりもした。駆け引きがうまい。
残念ながら独立宣言したあとの交渉の最中、右腕に裏切られてフランスに収監され、数年で獄中死。
その右腕が独立の最後のまとめをやって国を「ハイチ」としてトップに座る。
が、ルーベルチュールはやらなかったであろう「フランスへの、というか農園経営者への復讐」を行った。これが尾を引いて、国家として承認されたものの多額の賠償金を被せられ、いまでもハイチは貧しい国のままでいる。

・うまくいってることを続ける
・ショッキングなルールを作る ...ショッキングなルールに対して哲学のある答えを用意する。何でそうなってるんだ?という新人の驚きに対して、何度も何度も説明が繰り返され、それが文化となる
・形から入る ...奴隷の反乱軍に制服を作って与えた。

ショッキングなルールの例。
ルーベルチュールの奴隷反乱軍では「妾は禁止」というルール。当たり前とされていたことの禁止。なぜ?という疑問に「最小単位の約束を守ることがう重要」という説明を行った。
また、初期のフェイスブックでは「素早く動き破壊せよ」というルールができた。壊していいの?と驚きを呼ぶルール。理由は、安定よりも進化を優先するというメッセージ。ただ、そのあとアプリ開発基盤ができてインフラがぶっ壊れすぎてて全然乗ってくれる人がいない、となったら「インフラを安定させつつ素早く動け」みたいなわりと無難なルールに変更された。ルールは時期によって変わる、と。

あとはアップル復活のエピソードとか、Amazon が初期にドアを机にしていた倹約精神とか、わりと有名どころ。

文化は行動の積み重ねである。言行一致。
文化は行動の積み重ねなので、一度決めたらあとは放っておいてよいものではない。

2016年大統領選。ヒラリーがメールを個人サーバで扱っていた。それにより直接的に因果関係はないだろうが文化として「利便性のためならセキュリティを犠牲にしてもよい」という文化が造られ、結果、同じく個人サーバでメールを使っていた他のメンバーがハッキング(というよりも単に Google を語るパスワードリセット依頼メールにひっかかった)を受けて諸々メールが流出。その影響を受けてトランプ勝利に傾いた面がある。

Uber の文化も激しいことで有名。
リーダーは「勝つことにこだわる」組織を作りたかったのだろうが、勝つためならわりと「何でもする」文化が出来上がった。勝つためなら法律違反も許される、という。リーダーが明確にそう支持したわけでなくとも、ひとつひとつの行動が積み重なって文化となり、良くない文化はどこかで綻びを生じる。

武士道。1186年から1868年までおよそ700年間が武士の時代
;; もうちょっと粒度高く日本史を知っている身としては、そこの700年を丸めるの随分乱暴だなと思わなくもない

武士の時代には、倫理的な葛藤やいろいろな問題に対処するフレームワークがあった
葉隠』を「武士の知恵をまとめた最も有名な武士道の著」として紹介している
葉隠』のなかの「武士の四誓願」では、
1. 武士道を誰よりも率先して実践する
2. 主君に忠誠を尽くす
3. 敬意をもって両親に孝行する
4. 思いやりの心で他人を助ける
と書かれている

価値観よりも徳(善い行い)の体系が文化であった。
武士道は死を意識する。『葉隠』の最も有名な一節は「武士道とは死ぬことと見つけたり」というアレ

武士の規範である八個の「徳」: 義、勇、仁、礼、克己、誠、名誉、忠義。
それぞれ互いに絡み合って、どれか一つだけだと歪んだ結論にいたりそうなところを支えているのだ、と


殺人で19年間刑務所にいたシャカ・サンゴールという男
著者は彼と個人的に友人になり、刑務所内の「団」をまとめあげた話を聞いた
ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』とかジェームズ・アレン『原因と結果の法則』を副読本書きつつ読書会やってたとか。

リーダーが自分たちの文化をどう捉えているか、はあまり大切ではない。
リーダーが思う「企業文化」は社員の体験からは程遠い
リーダーの価値観が組織文化に反映される。ゆえに企業文化を変えるには、リーダーは自らを変える必要に迫られる。

行動は理念に勝る。
信頼が大事だといいつつ社員の信頼を裏切る行為をしていれば、文化はできない
初期設定、デフォルト設定が大切。
ルール・掟を自分の都合がいいように解釈するのはよくあること。

チンギス・ハン(昔の名前は「テムジン」)は歴史上最も優れた軍事指揮者。広大な土地を征服。
テムジンは子供の頃、部族以外にも信頼できる人間がいることを体験する。

自問自答で、問いがゴミなら答えもゴミになる
「なぜアフリカ系アメリカ人の CEO が少ないのか?」では人種差別がどうこうという答えしか得られないが、
「なぜ貧困地帯で育った黒人がマクドナルドの CEO になれたのか?」と問えば、もっと有益な答えが得られる
;; トンプソン氏 https://jp.reuters.com/article/mcdonalds-thompson-idJPKBN0L200P20150129

文化をデザインすることは大切。
文化とは理想を追いかけること。完璧にするのではなく、昨日よりも良くする。
他の文化から気づきを得るのはいいが、そのまま真似はしないこと。

顧客第一主義の落とし穴。
顧客は既存プロダクトにはあれこれ注文をつけるが、まだ存在しないプロダクトについては曖昧な意見しか持ってない。

時が流れると、うまく機能していたルールが文化を破壊し始める時期がある
文化が壊れ始めてる兆候は
・辞められては困る人がよく辞める
・自社の最重要課題がうまくいってない
・ありえないことをやる社員がいる

ショッキングなルールは「なぜそれがあるか考えさせる」もの
一方で「見せしめ」という手もある。悪いことが二度と起こらないように、絶対忘れない警告とするもの

2012 年ラリー・ペイジジョブズと話したあとベン・ホロウィッツにも相談しに来て、
話し合った結果、アルファベット社を置いて Google をその下のひとつに位置付けることにした

前著『HARD THINGS』のポイントは「平時」と「戦時」では経営スタイルが異なるということ。
ほとんどの CEO は「どっちか向き」であり、両方できる人はあまりいない
チームも「ボスは戦時 CEO の方がいい」というタイプがいたりする