『「帝国」ロシアの地政学』小泉悠

2022-06-09 開始, 2022-06-11 読了

ロシア軍事研究者兼自称オタクの小泉悠さんの本。
より軍事面にフォーカスした新書はこちら: 『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠 - ミームの死骸のmemex(拡張記憶)

プーチンは「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的悲劇」と言った

北方領土「ビザなし訪問」は内閣府北方四島交流事業によって可能になってる
基本、船で。船の中と到着地点では目と鼻の先だけど2時間の時差がある
飛行機を使わないのは、船だと「宿泊」しなくていいから。朝に島に到着して夜は北海道に戻る。北方四島で日本人が事件に巻き込まれたり死んだりしたらロシアの行政機関に巻き込まれ、政治的によろしくない

四島の国後島の施設の看板にはロシア語ででかでかと「クリル諸島はロシアの領土」と書かれている。
島で合うロシアからの旅行者は「日本は一度行ってみたい」と屈託なく言う。認識的には、そして実態としても、北方四島は完全にロシアの土地。

ロシアの言説では「国民」はロシア国籍を持つ人ではなく「(スラブ)民族」なので、それを根拠に他国への介入を行ったりする

ここで目次。ざっくりとこんな話をするぽい

地政学

地政学
ロシア人はこの言葉が好きで、よく会話に「ジオポリティカ」と出てくる。が、単に周辺諸国との関係くらいのニュアンスで使われる
いま日本で地政学という言葉が使われるのは、基本的に米英流派。イギリスのマッキンダーが提唱、米国のスパイクマンが完成させたもの。
つまり、大陸勢力(ランドパワー)がユーラシア大陸の中枢(ハートランド)を支配したがり、英国や米国がシーパワーやでってやつ
英米流の地政学では、科学というよりもユーラシアに対する戦略論という性格が強い。
実際、日本もランドパワーである中国の拡張に直面しているので、英米流の地政学が人気になる。

だが、ドイツやスウェーデンの人の考える「大陸系地政学」は考え方が違う。

ソ連後のロシア

ソ連は、共産主義という理想に向かって諸民族が結託したものだった。
だが現在のロシアはもともと、ソ連からの決別のためになし崩し的に独立したもの。そこに強いイデオロギーはなかった。
国家に歌詞すらなかった。プーチン政権下の 2000 年代になんとか歌詞をつけたが、我らが祖国よ、と言うだけで特に哲学はない。

新生ロシア。ソ連崩壊後の身の振り方がわからない。西欧化の挫折。
そこで地政学に自我を求めたのが現在の帝国主義的ロシアといえる

プーチンの定義する「主権国家」は「自由の問題であり、自らの運命を自分で決められること」としている。世界で10にも満たないと思われる。
プーチンにしてみれば、たとえばドイツは主権国家ではない。日本も主権国家ではない。
インドや中国は主権国家である。

プーチンによれば米国は「戦争に見えない戦争」を仕掛けている
内政干渉、圧力を超法規的に正当化することで、違法な脅迫を行う

2000年に成立したばかりのプーチン政権は、エリツィン政権末期に悪化した西側諸国との関係改善を掲げ、
今では考えられないほど米国に配慮した対外政策をしていた。

ソ連の認識では、冷戦の終結は世界の破滅を防ぐために米国と共同で成し遂げたこと。
だが、冷戦の終結と国家の崩壊が同時に起こったことで、資本主義という「正しい」ものが共産主義という「誤った」イデオロギーに勝利した、という位置づけがなされてしまった。

ロシア勢力圏と旧ソ連国家

グルジア (ジョージア) はソ連時代を「占領されていた」と見ている。バルト三国も同様。

ロシアとウクライナの文化的相違はけっこう大きい。
ウクライナポーランドリトアニア・トルコ・タタール/クリミアなどなどの影響も受けているから。
ボルシチ、カツレツなどはウクライナ料理だけどロシア料理として知られていった

クリミアのロシア併合時、プーチンが演説で語ったのは
・クリミアはもともとソ連
・クリミアの住民自身がロシアへの併合を望んでいる
キエフ政変は西側諸国の陰謀だった
という内容。聴衆にはとても響いていた

プーチンクリミア半島を併合しようとする場面で「ウクライナ国家の領土的一体性を尊重してきました」と語る
ブラックジョークのように聞こえるが、
ブラックジョークではないとすれば、これには「ウクライナ主権国家ではない」という前提があり、ウクライナはロシアの一部として、という暗黙の前提が含まれている。
つまりロシアの一部であるウクライナNATO から守ることはロシアにとっていいことであり、ゆえにウクライナにとってもいいことである、と。

クリミア半島の併合は、ソ連崩壊語のロシアの動きで言うとわりと例外的なケース
むしろそのあとのドンバス地方の件が、ロシアの「あるある」介入パターン

ロシアの軍事力は強くもないが弱くもない。広大な面積を守る以上、薄いところは出る。
ロシアが実際にバトってきたのは西側/NATO でなくて旧ソ連国家

ロシアと中東

シリア介入。
2010年代にアラブ諸国を席巻した「アラブの春」動乱。
2011年にシリアもこの波が来て、アサド家の独裁を打倒する動きが起こる。いわば革命が起こる。
そこでロシアがアサド家を支える。
中東においてロシアはたしかに存在感を増したが、米国に取って代わるほどではない。

そもそもロシアはなぜシリアに介入したのか?
対外・安全保障政策的にも、ロシアにとってあまり中東の優先度は高くない。
米国にとっては石油などエネルギー資源の安定供給という意味で中等の重要度は高いが、ソ連やロシア意宇にとってはそうでもない。
シリア介入は、ウクライナの介入のあとに起こった。
ウクライナ問題で悪化した立場を何らかの形で改善しようとして行われたのではないか? 米国にはできない汚れ仕事をやることで。
ただまぁ、そういう動機があったとしても、結果を見ると効果はわりと微妙だねと。

ロシアと北方領土

北方領土
2018年、プーチンが突如「年内に何の前提もなく平和条約を結ぼう」と提案した。ウラジオストク発言。
第二次世界大戦末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に履きして日本に進行した。ポツダム宣言受諾後も戦闘を続け、1945年9月1日までに北方三島を占領した。
1951年のサンフランシスコ講和条約で、日本が樺太とその近接諸島の権限/請求権を放棄した。
だが「誰に対して」放棄したみたいな話はない。ソ連は当初「ソ連の主権を認める」という文を入れさせようとしたが認められず、条約に調印しなかったため。

冷戦後の日露の議論は、北方領土はどちらの領土とも定まらない、という前提の元で重ねられてきた。
ここが決着してから平和条約を結ぼう、というのが東京宣言(だったはず)
それをスルーして平和条約やろうや、というのがプーチンの発言。
その場で安倍首相は答えを避けたが、その後明確に拒否した。
が、そのあと「プーチンの発言は平和への意欲」と好意的に解釈して急に仲良くなる。
(東京宣言をスルーして)日ソ共同宣言をベースに平和条約を、という方向へ。
だがプーチンとしては北方領土は「第二次世界大戦の結果としてロシア領になった」という立場を崩していない。
島を「引き渡す」といってるだけで、引き渡された島がどちらの主権になるかは明記されいない。
北方四島、うち2島は小さいのでロシア的に軍事の優先とも低いが、のこる2島は広く、そして既にかなりロシアの軍事施設が展開済。こちらは引き渡したくないだろうと

ロシア的には長期戦が有利。占領時の元島民もすでに老人、あと 10,20 年もすれば
だいたい死んで、住民感情として日本への変換を望む声は弱まっていく
軍事的に重要というのは、四島を日本に返すと、そこに米軍基地が建設される恐れがある。MD (ミサイルディフェンス) 構想とか言ってるけどあれは攻撃的性格のものだろう、と。
そして、かりに日本とロシアの間で「返還された島に基地は作りません!」と約束しても、米国が日米安保の名のもとに基地建設を遂行する恐れがある。これは妄想ではなく、日本は基本的に米国が基地を作りたいといえば拒否できない、という日米の密約が琉球新報?によってリークされている。沖縄島民がどれだけ反対しても基地は撤去されない。
日本は主権を持たない国だ、そことなんの約束をしたところで米国に強く言われれば日本は従うだろうと言う考え

ロシアと中国と日本

対中国の視点でロシアと日本は協力できるという意見もあるが、そもそも地政学的な接し方とか米国との関係とか、中国を「何の視点で」脅威とみえているか、二国間で違いがありすぎる
たとえば中国の人口が爆発したところで別にロシアより中国のほうが豊かだから不法移民が来るわけでもない
中国を隣人の位置に留め続け、対立しない、がロシアの基本戦略
味方ではないが敵でもない
ロシアが日本と連携して中国を敵に見立てたりしたら、それこそヤバくなる。だから、中国を共通敵として日露が結託する道はない
中露の関係がどこまで良好なままか、という面もあるが

北極

北極。
ロシアの面積の 1/5 が北極に分類される
第二次世界大戦中、北極は米英→ソ連の輸送路だった。当時の技術ではもちろんかんたんな道のりではなかったが。
そして冷戦が始まる、つまり米ソが対立し始めると、北極圏は輸送ルートではなく侵攻ルートとして警戒を持って見られるように
相互に核ミサイル基地を置いたり原潜を泳がせたり監視飛行したり、にらみ合いの最前線
ソ連は核実験場を北極に配置
温暖化により北極の氷が溶けアクセスしやすくなってる
北極は資源が豊富で、影響力を保ちたいロシア
北極海に面する4国のうちロシア以外はNATO加盟国