『イギリス諜報機関の元スパイが教える最強の知的武装術』

2022-07-27 開始
2022-08-05 読了

原題: How Spies Think.
2020年著
情報分析官の考え方を学び、よりよく意思決定できるように、という本

著者はイギリスの政府通信本部GCHQ)に勤務。長官まで務める。

情報分析官は、未知の状況、不確実で不安なとき、その苦痛や混乱に耐える能力を持つべき

著者が開発したモデル、SEES分析

  • 1. Situational awareness / 状況認識 … 何が起こっているのか
  • 2. Explanation / 事実説明 … いま目にしているものをなぜ見ているのかという関係者の動機
  • 3. Estimates / 状況予測 … 事態が異なる状況のもとでどう進展するか
  • 4. Strategic notice / 戦略的警告 … 何がいずれ問題になりそうか

なんとなく言ってることわかるけど、関係者の動機とか、異なる状況のもとでとか、文脈がこれだけではわからないものもある

事実説明では、状況認識に意味を与える
入手できる証拠から最も整合性のある説明を組み立てる。

SEES分析で起こるエラー
何が起こっているか評価することが難しく、状況認識ができない。
情報ギャップによって、新しい証拠を前にしても考えが変わらない
他者の動機に対する理解が浅く、説明が組み立てられない
事態が予想外の展開になり、今後の展開予測ができない
視野が狭いとか想像力の欠如によって、戦略が開発できない
複数の視点でレッスンしていく

  • Lesson#01: 知識は常に断片的で不完全で、ときに間違っている
  • Lesson#02: 事実は説明を必要とする
  • Lesson#03: 予測には十分なデータだけでなく説明モデルが必要
  • Lesson#04: 予期せぬ事態もそれほど驚く必要はない
  • Lesson#05: 認知バイアス
  • Lesson#06: 強迫観念
  • Lesson#07: 偽情報
  • Lesson#08: 相手の立場で考える
  • Lesson#09: 真の信頼関係を構築する
  • Lesson#10: デジタルメディアという"脅威"

レッスン6とかは面白いな…「閉じられたループの中で起こる陰謀論的な考え方の危険性と、警鐘となるべき証拠がいかに都合良くごまかされてしまうか」

新しい情報によって状況認識がいかに変わるかの評価: ベイズ推定
目の前にある証拠から、その起因となる可能性が最も大きなものへと遡る

たとえばキューバ危機は、ソ連キューバに核ミサイルを持ち込む可能性は低いと考えられていたところに、写真が撮られ、マジで持ち込む可能性ありそうという判断に変わった、と。
(この話にベイズ推定持ち込む意味あるか?)
ちなみにケネディ大統領が報告を受けて判断を変え、海上封鎖を行ってそれ以上の建設を防いだ
海上封鎖ってどうやるの

> 海上封鎖(かいじょうふうさ)とは、ある国が海軍力を用いて、他国の港湾に船舶が出入港することを阻止すること
武力で通せんぼか
ケネディ大統領は、ミサイル基地を破壊するための空爆は必要ないと判断。時間的余裕があったから

外れ値は新しい見識の始まり
とはいえ人間は本能的に、一般的なパターンに合わない情報を無視したり、何か説明をつけようとする性質がある

その時の心理状態によって、何に注意を向けるかが変わる

自分が探していたものを情報源に見せられたと思うときは、とくに注意した方がいい。 (p.40)

ノルマンディー上陸作戦とか

オープンな情報から分析する「オシント」

検索エンジンが収集可能なのは 0.03% で、それ以外は「深層ウェブ」で、予め場所を知っているとか閲覧にパスワードが必要とか
深層ウェブの他に「ダークネット」と呼ばれるものがあり、Tor などを使ってアクセスしなければならず、違法な取引や犯罪の情報交換に使われる

事実の意味は、状況にあわせて推測する必要がある。また、意味は考え方の一部であることを踏まえておかなければならない。客観的な事実を示しながらも、感情から生まれる期待や不安が反映されるからだ (p.61)

自明でないことを説明するには、複雑な問題を単純な要素に分解する。だが、情報を解釈するために用いる心象風景が古いと、正しく現実に導かれない
感情的に反応しやすいわかりやすい言葉でラベリングしがち。危険。

オッカムの剃刀。必要以上の仮定をおかない。
証拠 x 仮説をマトリクスにして、各セルにはその証拠がその仮設に矛盾するかどうかを記入。
また、各証拠の情報源と信用度なども記載(最初の列だけ特殊)
ホイヤーの表、と呼ばれる

有利な証拠が最も多い仮説ではなく、不利な証拠が最も少ない仮説を選択すべき

世界をできるだけ正確に説明するために
・事実の選択は特定の説明に偏っているかもしれないと認識する
・事実は自明ではなく、もっともらしい別の説明がつく可能性もある。
・それぞれの説明を、真実である可能性がある仮説として扱う
オッカムの剃刀
・証拠を使って、ベイズ推定により仮説を互いに照らし合わせて検証する
・不利な証拠が最も少ない仮説が、最も真実に近い可能性が高い
・感受性の面から、何が私たちの考え方を変えるのか

予測する。
ソ連の行動を「合理的に」予測したら外れた。合理的な人々が非合理的な政権の動きを予測しようとしたのが失敗要因
1968年のチェコスロバキア進軍とか、最近でもクリミア併合とか。これら、西側の情報分析官は予測できなかった

予測が間違うよくある理由は、信頼できる因果関係がないところでうまく行くことを想像して、超現実的な思考に陥ること

推定と状況予測のポイント
・状況認識からすぐに予測に飛びつくのは「機能的誤謬」。避けるには重要変数の相互作用を考える
・予測には限界がある。予測内容は確からしさの度合いで示す
・発生可能性が少ないが損害をもたらし得るものについて、最も可能性が高いものと同様に考察する
・false positive(誤検知)を下げれば false negative(見逃し)が増加する
・行動能力と行動意図は別物
・他者の動機を理解するときは先入観に気をつける

重大な危険は初期の兆候が弱く、現実というノイズの多い状況においては完治するのが難しいこともある。
…(中略)…
ある出来事の起こりやすさ(確率)と、それが実際に起こったときの影響の度合いから、「出来事の期待値」を予測することができる。
(p.125)

ドイツの難民キャンプに現れ、イラクの生物学兵器開発の事情を知ってるという通商「カーブボール」という化学者
情報を鵜呑みにして証拠として積み重ねた。本当かどうか疑われない。イラク進行の正当化のために大量破壊兵器保有していることを示せと大統領から圧力

結果的にイラク戦争が終わってから「カーブボール」は嘘をついたことを認めた
米英の情報分析官は、ドイツの妨害によりカーブボールと接触できていなかった

人間は情報を自分の思い込みを裏付けるために探したり、解釈したりしがちだ。得られた情報が、これまで信じていたことを支持していると思うと安心する。(p.144)

心理学で言う「確証バイアス」
認知バイアス。情報を自分の都合良いように解釈する
他者が自分と同じように判断するはずだ、という思い込み

人はもっとま恐れるものに注意を惹かれる

有能な人でも平成を失うと妄想にとりつかれる。陰謀論はなお罠度が高い

新たな情報が得られたら判断を変えるのは、正しいこと。これを責めてはいけない
誤情報は意図してない間違った情報
偽情報はひとを欺くための間違った情報

相手の立場で考える

どの国も自国に対するスパイ行為を国内法で違法としている。しかし、国際法では、諜報活動は禁じられていない。 (p.234)

密かに相手の考えを知る(発言の真意の確認も含む)方法があれば、重要な局面で助かる。
交渉資料にある相手の要求に答えればうまくいく、と考えるのは大きな間違い
交渉においては、どちらにも譲れない最低線がある

将来の利益は何か。自分だけでなく、相手も将来の可能性が広がるもの。

疑わしいときは正しいことをする。そうすれば失敗したとしても、正しいことをしようとした、という弁明ができる。

真のパートナーシップは難しい。ウィンウィンの関係と言うのはかんたんだが、実現が難しい。
片方が苦境に陥ったら、もう一方はそれを助けるために犠牲を払う、ということを双方が納得しなければならない。

防衛・安全保障・諜報の世界は、いまやインターネット経由で日常生活に直接入り込んでいる。